東京都美術館(上野)の「現代の写実―映像を超えて」【2017年11月17日(金)~2018年1月6日(土)】を見てきました。
場所は正面入り口から入って左奥のギャラリー棟。企画展示室がオーソドックスな名作展を行う一方で、この前川國男のデザインが色濃く残る空間は福田美蘭展や杉戸洋展など、これまでも数々の濃い展覧会が行われてきました。
今回の展示は写実画ですが、この分野は千葉市のホキ美術館が専門にやっているため、そのサテライト展示かな、ぐらいに思ってました。
そして確かに似たような絵はありました。小森さんの絵はホキの趣味そのままですね。
檸檬の瑞々しさが最大のウリです。やたらおばちゃんが多くてワイワイ喋りながら見てました。ホキもそうでしたが、写実画は若者に不人気なのか、それとも都美術館自体が不人気なのか?
同じフロアの塩谷さんの作品は特にこのフジツボの絵が気に入りました。
単なるリアルなフジツボではなく、魚眼レンズ気味の画面構成といい、岩山の頂点にポツンと生えてる状況といい、実は高度に演出された作品です。本物より本物らしく見える写実画の手本のような作品ですね。
ただホキっぽい作品は上の2人ぐらいで、奥に行くほどどんどん変な作品が多くなってきました。
この橋本さんの作品も、リアルな廃墟を描いているようで、奥に謎の什器が大量に並んでたりして、ありそうでない空間です。
どの作品もトラス構造を執拗に描いてて、好きなモチーフなのかな、と思いました。鉄骨造の構造美がストレートに表れてます。
高低差とレイヤーの重なりが激しく、特に複雑な作品です。
水、木片、錆びた鉄、コンクリートなど様々な素材の描き分けが見れます。
一見東山魁夷っぽい凡庸な画面ですが、やはり作者の理想的空間が人工的に作られています。いくら田舎でもこんな場所はそうそうないと思います。
ありえないほど理想化されたシンプルな駅。トタンと電車のコントラストが美しいです。
元田久治さんは三井記念美術館の驚異の超絶技巧展にも出品してましたが、まとめて作品を見るのは初めてでした。
首都圏の破壊はゴジラを思い出しますが、よく見ると非常線が張られてたりしてドラマを感じます。草が生えてるので破壊からずいぶん時間が経っているよう。車が放置されているので、人類だけ一瞬に消滅したという設定でしょうか?
渋谷駅は2017年現在も工事中です。あくまで現在の状況から廃墟化してるのが面白いです。
こちらも電車から人が脱出した形跡があったり、アスファルトが崩落して地下街が見えてたりして、ドラマを感じます。
生き物めいたジェットコースターが楽しい作品です。ドームが一部沈み込んでるのも〇。元田さんもいろんな崩壊の仕方を明らかに楽しんで描いてますね。
こういう構造物の破壊を見ると、コイツを思い出します。
海外の建物を題材にしたのもありましたが、いつも見てない建物だと、いまいち面白くないですね。いつか実物を見てみたいです。
メインビジュアルに使われていた作家さんです。タイトルから察するに、食物を飾り付けるのは食物に対する「信仰心」からでしょうか?彼女の目に食べ物がどのように見えているのか、気になります。
今回一番衝撃を受けた絵です。食物が食物を喰らうという奇想。もっともトマト目線から見ると、我々人類の調理法もこんなふうに見えているのかも。
服装だけが違う同じ顔の女たち、怪しげな車内と車窓の風景と、謎が謎を呼ぶ作品です。
特に怪しげなのは外のネオン街と、ガラスに映り込む荷台の組み合わせ。今回の展覧会は「映像を超えて」ですが、映像化してほしいような風景です。
今回出品作の中で最大の作品。
解説に「空間恐怖」とありましたが、その通り、それぞれの箱の中に様々な空間が氾濫を起こしています。
最後に、「よく写実絵画展に入れたな」と学芸員さんに感心した人を紹介します。「実際に目に見えなくても、想像がリアルなら写実画だ」ということでしょうか?立体作品も作っているみたいで、脳をリアルに作ることで、脳内空間の謎に迫る、みたいな人のようです。
それほど期待していませんでしたが、絵画展でこれほど発見があるとは思っていませんでした。写実画、絵画の未知の可能性を強く感じる展覧会でした。ナンコレ度★★