2018年6月19日
  • 日々観た展覧会や関連書籍の批評をしていきます。

ヒトの境界線が揺らぐ「戸谷成雄ー現れる彫刻」

武蔵野美術大学美術館で開催中の「戸谷成雄ー現れる彫刻」(2017.10/16-11/11)を見てきました。

武蔵野美術大学のメイン部分は芦原義信氏設計。この美術館は外部との連続性を強調するため、床のレンガが内部まで連続しています。

 

戸谷成雄さんは一世を風靡した「もの派」を批判的に継承する「ポストもの派」に分類される彫刻家です。同じグループには川俣正さんや遠藤利克さんがいますが、どちらも今年都内で個展があり、ちょっとした当たり年でした。

 

川俣さんは仮設の木材で既存の建物を覆いつくすインスタレーションで有名です。今年秋口には代官山ヒルサイドテラスの屋上を覆う「工事中 再開」を実施しました。

 

遠藤さんは埼玉県立近代美術館で大型の個展を行いました。

遠藤利克「空洞説ー丸い沼」埼玉県立近代美術館にて

遠藤さんと戸谷さんは表現方法や関心の方向性は全然違いますが、木を使うこと、それにびっしり彫刻を施すこと、作品がどんどん巨大化していく点などは共通です。

「ポストもの派」は「もの派」が否定した作家性や物語性の回復が特徴です。どのような物語があるのか、気になった作品ベスト5で見ていきたいと思います。

5.コンクリと一体化する人体?

森化Ⅱ、Ⅴ、Ⅵ、Ⅶ(2003年)

入り口入ってすぐの巨大彫刻「雷神ー09」以上に気になる、コンクリの壁に巨大なチューインガムを貼り付けたような彫刻。

よく見ると壁側には人体が壁側に貼りつき、その背後を戸谷さんのトレードマークともいえる「森」が貼りつきます。

建物と人体、森が一体化していくようで、諸星大二郎さんの人工物と人体が一体化する漫画思い出します。

諸星大二郎「生物都市」

森Ⅹ(2016)シュウゴアーツでの展示

戸谷さんといえばこの森のような人体のようなものが林立する彫刻のイメージが強いですが、今回は「森」を前面に押し出した作品はなく、代わりに身体性の強い体験型のより大型の作品が集められていました。

4位.自然と一体化する彫刻

洞穴体Ⅲ(2010)

建物の次は森と一体化です。表面の彫刻は戸谷さんの出身地の秩父の地形を元にしています。

 

裏面に回ると壁に耳をつけて音を聞く人を模した彫刻が貼りついています。

裏面の耳の部分は表面の穴の部分に当たり、中に手を入れることができます。裏面の人もいろんなポーズがあり、一種の体験型のインスタレーションになっています。

3位.衝撃を受け止めて

≪境界から≫Ⅴ(1998)

作品の横にいるのは解説する戸谷さん本人です。表面には壁面いっぱいの木の板に、内部に彫刻を施した大穴。さきほどの洞穴体Ⅲの横をすり抜けて裏に回ると・・・

展示室を貫くほどの長さがあります。カタログによると315×480×2,060mmだそうで、これを見る機会も貴重そうです。戸谷さんによると1997年の「神戸連続児童殺傷事件」に衝撃を受けて、被害者の母親の受けた衝撃の大きさを視覚化したそうです。

しかしこちら側だけ見るとピノキオの鼻みたいですね。表面に施された彫刻も生物的に見えてきました。

2位.異星の客

見られる扉Ⅱ(1994年)

こちらも大きさ3,750×11,000×31mmということで、展示室一部屋まるごと使っての展示でした。漆喰の壁にワックスで作られた扉が7枚付いています。ちゃんと扉の覗き穴もあって、扉の向こうで作品を鑑賞する人が見えます。扉を潜って裏側に回ると・・・

今度は壁がワックスになり、扉には人体の抜け殻のような彫刻が施されています。

戸谷さんは前世紀末のユーゴスラヴィア紛争をテレビで見て、相互理解の大切さを彫刻で表したとのことです。

ただ僕はこの作品からSF的要素を感じます。SF映画「ボディ・スナッチャー」は巨大な鞘から人間そっくりの宇宙人が出てきて本物とすり替わるという話ですが、ワックスに包まれた扉から人体が出てくるというのは、ワックスのもつ有機的なイメージもあって非常に不気味です。

映画「ボディスナッチャー」

1位.都市が崩壊して森が現れる

洞穴体Ⅴ(2011)

きっちりとした床のレンガに合わせて、一辺220mmの箱が置かれています。その表面にはこれまたきっちりと方眼が彫刻されています。写真の通り、裂け目をのぞき込んで完成する作品です。

よく見ると、大きな裂け目の他に、小さい無数の切れ目があり、そこからも中をのぞけます。

上階に上がってやっと作品の全貌が明らかになります。僕の目には切り刻まれた箱は巨大マンションのように見え、建物が崩壊して中から森が出てくる作品に見えました。

 

 

僕としては夏に見た遠藤さんの作品との比較が気になります。遠藤さんは火、水、土といった物質や神性に関心を抱いているのに対して、戸谷さんは自然と人間の関わりに関心が言っていいるように感じました。

また夏にあったジャコメッティ展は、彫刻にも関わらず正面性が強く、回り込んでみる意味があまりない作品が多かったですが、今回集められた作品は過剰なまでに裏側に回ることに意味を持つ、ある種エンタメ性が強いものが多かった気がします。作品を体験することで「見る」と「見られる」が逆転するのも面白いです。

「森」のイメージの強かった戸谷さんが意外にもそれ以外の作品を多く作り、色んなことに関心を持たれていることが分かったのが収穫です。逆に「森」との共通点は戸谷さんのモノの本質に関する関心です。作家の考えに理解が深まるいい展覧会でした。

ナンコレ度★★★

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