• 日々観た展覧会や関連書籍の批評をしていきます。

★★★後藤克芳 ニューヨークだより

渋谷区立松濤美術館の「後藤克芳 ニューヨークだより“ 一瞬一瞬をアートする”」【10月3日(土) ~ 11月23日(月・祝)】を見てきました。

 

こんなに面白そうな展覧会なのに、後藤って誰?と誰もが思ったであろうと思います。

篠原 有司男や河原温などニューヨークの著名アーティストと交流があり、一貫してニューヨークで生活し生涯を芸術に捧げた後藤氏の知名度が全くないのは、彼がニューヨークでの個展を夢見て発表せずに手元に置いており、そしてついにニューヨークの一流画壇にデビューするレベルに達しなかったからです。かといって国内に活動の場を移したわけでもなかったので、作品は全く埋もれてしまっていたのです。

後藤克芳「Duco CEMENT」

後藤さんの作品の基本は

①日用品

②木製

③反立体物

④巨大化

⑤ダメージ、使用感など物的損傷

といったところで、アメリカの美術というと多くの人が真っ先に思いつくポップアートを彷彿させるものです。

メインビジュアルになっている上記の作品は接着剤の箱にカエルのおもちゃを貼り付けるというもの。箱は値札と接着剤が付着した跡が再現されています。そしてこれらは木製で、実物よりもはるかに巨大化しているのが特徴です。

 

後藤克芳「untaited(BANANA)」

こちらの作品はロイ・リキテンシュタインのコミック風の作品を彷彿させます。

尤も後藤さんにとっては身の回りのものをモチーフにしたに過ぎないのかもしれません。

コミックの花が平面的な一方、バナナの花瓶は克明に再現されています。

 

後藤克芳「NAJL BOX」

こちらは釘の箱に釘で穴を開けたものを巨大化しています。

箱をアートとみなすのはウォーホルと共通しますが、あちらが完コピなのに対し、こちらは木製の手作り、ダメージ表現など手間が段違いです。

なのにウォーホルの方が遥かに成功しているように見えるのはそういう時代だったとしか言いようがありません。

ウォーホルだけでなく、トム・ウィッセルマンやロバート・ラウシェンバーグ、ジャスパー・ジョーンズらはもっとクールで洗練された感じがします。

それはニューヨークで成功した草間彌生、荒川修作、河原温などからも感じます。

後藤さんには彼らにない泥臭さがあったようです。

後藤克芳「COLORADO」

上記はそんな後藤さんがニューヨークで画壇に認められた作品です。

いつも通り日用品である切手を使っていますが、自然が書かれた切手をカミソリで切ることで批評性を生んでいます。

後藤克芳「MAIL BOX」

同じ展覧会に出品された作品です。

郵便受けは立体ですが、鱒は平面です。

側面にはやはり大自然が描かれています。

 

後藤克芳「Tennessee Valley」

上記作品の後、後藤さんは切手をモチーフとした作品を複数制作しています。

ダムは環境破壊の象徴としてモチーフに選ばれたようです。

切手を重ねてダムの形を作っているところを再現しているらしく、それを決壊させています。

後藤克芳「MY TOOL(B)」

モチーフによく使われるのは食品と工具。

これは両方が使われている例です。

絵の部分がピーナッツバーが齧られたようになっています。

後藤克芳「SOUVENIR」

こちらは本来エンパイヤステートビルのお土産品を参考にしたものですが、基壇部分だけを再現するとアイスのコーンのように見えます。

後藤克芳「MY SUNDAY」

何と靴底の、それも先端部分だけを拡大して再現したインパクトの強い作品。

底面にはピーナッツの漫画が貼り付いています。

貼りついた紙が靴底からはがれている部分も木で再現しています。

 

後藤克芳「KIKI」

最後には飼い猫をモチーフにした作品が多数展示されていました。

これはモビールのように吊るして鑑賞するタイプです。

後藤さんの過去の作品と違い、晩年の一連の作品には長年のテーマが見られないものも多数ありました。

 

成功したアーティストの華麗な展覧会にはない、生活感あふれる作品が多く、好感が持てました。★★★

 

コメントを残す