映画レム・コールハース:ア・カインド・オブ・アーキテクトを観ました。
オランダの建築家、レム・コールハースのドキュメンタリー映画です。
彼の著書錯乱のニューヨークは彼の建築以上に有名で、その理論の重厚さから彼を20世紀最大の建築家と考える人も多いです。
一方で日本での受容は、国内の作品が福岡の高級集合住宅ネクサスワールド ぐらいしかないこともあり、建築関係者以外の知名度は低いように感じます。
本映画は当時建設中の中国中央電視台本部ビルを最新作として、それ以前の彼の代表作を観つつ、その思想を辿ろうというものです。
ここでは4つのポイントに絞ってその内容を紹介したいと思います。
映画では建築家になる以前のコールハースについて詳しく紹介しています。
彼が若いころジャーナリストだったことは有名です。
後に膨大な量のリサーチと著書に現れているように極めて好奇心旺盛で、あらゆることを吸収していったようです。
映画内で随所にみられるキッシュなコラージュ映像も魅力的です。
印象的だったのは学生時代のベルリンの壁の研究です。
壁で囲うことによって逆に自由な社会を作るという考察です。
これはのちの彼の建築に現れる冷たさにも関係すると思います。
カーサ・ダ・ムジカはポルトガルの劇場です。
周囲の建物からは激しく浮きまくっていることが分かります。
夜は全く別の印象を受けます。
形状は靴箱をイメージしています。
スケール感を無視した着想は彼の特徴です。
この靴箱から必要とされる体積を抜き取ることで設計されました。
このような誰でも思いつくような発想を重厚な理論によって実現してしまうのが彼の真骨頂だと思います。
外観に反して内装は周囲の街のものを取り込み、鮮やかです。
しかしその外観は冷たさを感じるものです。
かつてユリイカでも分析されていましたが、彼の建築は居心地の良さを指向していないことが多いです。
またものづくりのような温かみを感じることも少ないようです。
一方空間の体験は衝撃的なことが多く、彼が体験を通して人々の考えを変えることに関心を持っていることが分かります。
こちらも空間の体験を重視した設計です。
外観から分かりますが、その最大の特徴は建物周囲を巡る通路です。
建物は旧東ドイツの中心部に建っており、その歴史を強制的に意識させる作りになっています。
通路はわざと色調や角度を劇的に変えており、やはり居心地のよさより衝撃に重点が置かれているようです。
また外交をテーマにしている本建築は天井が透けていたり・・・
通路が謎の交差をしていたりと、使いやすさを犠牲にしてまでコールハースの考える人々の関わり方が実現されています。
こうなってくると見晴らしのいい会議室は逆に取って付けたような違和感を感じます。
著書でマンハッタンを分析しているように、摩天楼はコールハースの関心を常に惹きつけ続けました。
キャリアの初期から夢想的な摩天楼の計画は数々あったようです。
かつては韓国に世界最高の高さのビルを作る計画もあったようです。
それだけあって彼が9.11跡の高層ビル設計コンペに参加しなかったことは意外でした。
彼は誰よりも高層ビルの研究をしてきただけに、高さを競う建築にはもはや興味を持てなかったのです。
代わりに彼が選択したのが中国のCCTV本社ビルです。
ビルを横倒しにしてOの形になっています。
とはいえこの建物に関してはこれまでのような衝撃が外観以外からは感じられません。
建物が巨大化するほど無個性になっていくという宿命はコールハースといえども逃れられないのでしょうか?
真面目な議論はともかく、建物の美しさに拘らない彼らしく、この映画も様々な実験的手法が多く、軽く楽しめる部分も多く、おすすめです。★★