• 日々観た展覧会や関連書籍の批評をしていきます。

★★★「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか」

森美術館未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか【2019.11.19(火)~ 2020.3.29(日)】を見てきました。

 

森美術館のテーマ展は2018年の「宇宙と芸術展」、2019年の「カタストロフと美術のちから展」など面白いものが多いです。

今回も未来と芸術という問題に真正面から向き合う企画展です。

特に興味を引いた作品をピックアップしてみました。

 

次点.WOHA「オアシア・ホテル・ダウンタウン」

今回の企画展は2011年の「メタボリズムの未来都市展」に端を発しているそうです。

日本初の唯一の建築思想であるメタボリズムをいち早く再評価した展覧会で、非常に意義深い展覧会でした。

僕自身も5時間も見るのにかかった濃密な展覧会でよく覚えています。

それだけに今回の展覧会も冒頭からかなりの面積を使って建築を紹介しているのですが・・・

正直夢みたいな現実味のない企画か、もしくは難解な理論系が多く、メタボリズムのようなワクワク感も現実感もありませんでした。

その中で唯一紹介されていた、すでに実現しているプロジェクトがこちら。

植物に覆われた建物は日本にもマルビルなどありますが、こちらは空中庭園をいつも設け、外部と内部を接続しようとしているところが違います。

赤と緑という鮮烈な色使いも面白いです。

 

第10位.ビャルケ・インゲルス&ヤコブ・ランゲ「球体」

これも建築周辺に属するプロジェクトです。

アメリカのネバタ州に作られた直径25mの球体です。

クラウドファンディングで作られたものらしく、建設の過程自体も作品に取り込まれています。

砂漠のど真ん中に出現した巨大な球体が非常にSF的です。

 

第9位.ガイ・ベン=アリ 「cellF」

神経細胞で奏でるシンセサイザー。

説明を読んでもよく分かりませんでしたが、いずれ考えたことがそのまま音楽になるとして、その先駆けということでしょうか。

ライブパフォーマンスのノイジーな音といい、巨大な箱状のミニマムなデザインといい、意図せずデストピアを思わせるビジュアルです。

 

第8位.やくしまるえつこ「わたしは人類」

同じくバイオ技術を使って作られた音楽ですが、こちらはカワイイ系。

説明はやはり難解ですが、DNAの塩基配列に従って作曲したということでしょうか?

 

第7位.ヘレン・ノウルズ「スーパーデットハンターボットの裁判」

動画作品で、平たく言うと会社の経営をAIに任せた結果、非人道的なことをしたので、AIが裁判にかけられたという話です。

動画の最後にホントにAIが裁判に出廷しているというオチつきです。

展示は後半に行くほどデストピア率が高まってました。

 

第6位.メモ・アクテン『深い瞑想:60 分で見る、ほとんど
「すべて」の略史』

60分間もある映像作品です。

雄大な自然と音楽が延々と流れますが、これらは写真共有サイトを元にコンピュータが作った偽の風景です。

没入感のある非常にレベルの高い作品でありながら、その全てが偽物という現実は私たちの社会の現実を突きつけられた思いです。

 

第5位.ラファエル・ロサノ=ヘメル&クシュシト
フ・ウディチコ「ズーム・パビリオン」

壁4面を使った、室内に入ってきた観客によって成立する映像作品です。

 

室内の観客の動作や視線の動きを分析し、壁面の映像に反映されます。

要は超監視社会を疑似体験するものです。

現在の技術水準は我々の内面をここまで見透かすことができるということをつまびらかにした作品で、これも現代社会を分析した優れた作品だと思いました。

 

第4位.ダン・K・チェン「末期医療ロボット」

ハイテクな作品が多い中、ローテクかつローコストな作品もまた、私たちの未来を予言しています。

作品を構成するのはベッドとUSBで動作するスピーカーと、ぎこちなく動くロボットアームのみ。

映像ではこのロボットの使い方(?)を説明されています。

死にゆく人を看取る家族や友人がいない場合、このロボットが登場します。

腕をさすり、スピーカーからは慰めの言葉が流れます。

無縁社会を表わすとともに、金がない人はこんな数千円で帰るような機会に看取られるという格差社会をも表現していると考えられます。

 

第3位.長谷川 愛 「ポップ・ローチ」

暗い作品が続きますが、こちらはブラックユーモアともいえる作品です。

「美味しくかわいく機能的なゴキブリを!」をキーワードに、食用ゴキブリが発売されたら?という架空の広告です。味もミント、バナナ、ジャスミンなど若者向けになっています。

実際東南アジア諸国では昆虫食は現在もありますし、昆虫は豚や牛に比べて費用や労力当たりの採れる肉の量が多く、環境にやさしい食品でもあります。現実化したときに慌てないように勉強しておくといいかも知れません。

 

第2位.アウチ「データモノリス」

展覧会の最後に展示されていた作品です。

直方体の柱をスクリーンに、目まぐるしく変化する抽象的な映像が延々と流れます。

モノリスと言えば映画「2001年宇宙の旅」に出てくる神のような存在ですが、これは未来のはるか遠い到達点を表現しているのかもしれません。

 

第1位.OPEN MEALS「SUSHI SINGULARITY」

黄金に輝くスシマシーンが一位です。

伝統と革新の融合といえば使い古された表現ですが、典型的な寿司職人がスシマシーンを操る(?)映像が面白いです。

あらゆる食材がゲル化され、3Dプリンターによって建築的な寿司の数々が生み出されます。

 

PVのようにテンポよく新商品が紹介されます。

商品名もシャレが効いています。

もっともらしく寿司を頬張る外国人の表情も笑えます。


難解な作品も多いのですが、一方直感的に面白いものも多く、批評性も高いので優れた展覧会だと感じました。★★★

 

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