映画アートのお値段を見てきました。
タイトル通り、基本的なテーマは「なぜこの作品はこの値段なのか?」という疑問に答えるものです。
とはいえ本作の魅力はそれだけではありません。
ここではその魅力を
①コレクション
②コレクター
③アートのお値段
の3つに分けて見てみたいと思います。
本作には非常に多くの美術作品が登場します。
登場する作品は村上隆の1点を除き、全て西洋人の作品。
そのためピカソなどのモダンアートや、ウォーホルのようなポップアート以外にも、日本人には馴染みの薄い作品も多く登場します。
にして日本人アーティストが村上隆のみとは日本のアートがいかに取り残されているかが分かります。
もっとも中国などのアーティストの紹介がゼロのことを考えると、偏りを感じますが・・・
これは村上隆、草間彌生、奈良美智といったトップアーティストが既に過去のものになりつつあることを示しているのかもしれません。
マウリツィオ・カテラン「彼」
これら日本で知名度の低いアーティストの中で印象に残ったのがマウリツィオ・カテランというアーティストの作品。
とくに「彼」という作品はインパクト抜群。劇中では後ろ姿から紹介することで効果的に見せていました。後ろから見ると子供にしか見えません。視線の先に何を置くのかがポイント?
彼には他にも美術館に設置された黄金の便器などインパクトがありながら無意味な作品が多く、岡本光博の活動に近いかも知れません。
国内では実は横浜トリエンナーレで紹介されています。
本作には多くのアーティスト、コレクター、キュレーター、オークショニアなどが登場します。
その中でも強い印象に残ったのが、コレクターのステファン・エドリス氏です。
上述のマウリツィオ・カテランの「彼」の持ち主でもあります。
高層階のオフィスと思わせる自宅に自由自在にアートを飾っており、企業系の税金対策のために購入し、倉庫にしまいっぱなしのコレクターとは一線を画します。
現代アート界の両親を思わせる彼の言葉はなかなか含蓄があります。
メインテーマである「アートのお値段」については、印象的な2人のアーティストが登場します。
まず1人目がジェフ・クーンズ氏。
氏は国内ではルイ・ヴィトンのバッグ以外にはほとんど紹介されていませんが、国際的には非常に有名です。
毀誉褒貶の激しい人物でもあり、自身の妻である元ポルノ女優とのセックスを作品化したり・・・
著作権違反で何度も有罪判決が下ったりしている人物です。
氏の手法はいわゆる炎上商法で、それがナイーブな国内アート市場に受け入れられないのが紹介が少ない原因だと思われます。
若いころは株の仲介人だったというクーンズはアート市場でどうすれば高く売れるのかということを熟知しています。
それはつまり、如何に億万長者にウケる作品を作るかということに他なりません。
彼が国内で紹介されないのは、世界で一番多く美術館に行く一般日本人の価値観に受け入れられないからかも。
例えばこのシリーズは「作品を見る自分自身の顔が映る」ことをクーンズは熱心に説明していましたが、僕には「だから?」としか感じませんでした。
クーンズの他にも現在最も高いアーティストと言われるダミアン・ハーストや、玄人筋に評価が高いゲルハルト・リヒターも映画には登場しますが、はやりインパクトが強いのはクーンズ。本人の多弁さと活動の派手さが目につきます。
もう一人注目したいアーティストがラリー・プーンズです。
彼はアンディ・ウォーホルなどポップ・アーティストと同世代で、一時期は人気が無くなり、忘れ去られた作家でしたが、近年人気が復活しました。「売れていたらもう死んでた」とは本人の弁。
これは「過小評価されたアーティストを探せ」というアート市場の仕掛け人たちによって作られたものです。国内でも「具体」の作家が過剰評価されているという事情があり、このような動向は世界共通のようです。
評論家やキュレーターの評価の関わりますが、しょせんアートの価値は移り気なものなのでしょう。
満足のいく回答かは別として、誰もが持つ疑問に真正面から回答した点は大いに評価したいです。
また知られたものから国内では無名のアーティストと作品が大量に登場するのもポイント高いです。★★