2017年12月11日
  • 日々観た展覧会や関連書籍の批評をしていきます。

★★梵寿綱建築の隠された実用性を読み解く

「日本のガウディ」と呼ばれ、一部の好事家にカルト的人気を誇る梵寿綱さん。

左から黒川紀章、磯崎新、槇文彦

実は黒川紀章さんと同年で、磯崎新さんや槇文彦さんと共に建築界の最長老の1人でもあります。

しかし一方で建築界では一貫して評価が高まらず、去年ようやく既になくなった建物を含む作品集が出たぐらいです。


作品集に先駆けて、サブカル雑誌「TH」にて数々のアウトサイダーアーティストともに紹介されたことは、梵さんの作品がどのように見られているかを如実に語っています。もっとも梵さん本人はこのような雑誌で特集されたことを喜んでいましたが。

 

僕は2017年に梵さん本人の案内による梵寿綱建築ツアーに参加し、複数の建物を普段見れない内観まで含めて見学しました。そこから見えてきた梵建築の魅力を語ってみたいと思います。

➀斐禮祈(ひらき):賢者の石

池袋駅から徒歩5分ほど。おそらく梵さんの建物の中で最もアクセスがいいのではないでしょうか。

一階が酒屋、2階以上がマンションという外観以外はごく普通の用途のビルです。

梵さんっぽい装飾は外観とエレベーターホールのみです。椅子などにもこだわりがあります。

この装飾が見た目だけにとどまっていることが梵さんの作品が建築界で評価されない原因だと思われます。黒川さんなら建物の機能まで踏み込んでデザインするでしょうし、磯崎さんなら小難しい哲学の理論を用いて無理にでもその形態に意味があるかの如く述べるでしょう。梵さんは一切難しい理論は言わずに、自分はコスト面と建物の機能の管理に徹し、装飾は協働したアーティスト志向の職人に一切任せていたそうです。管理しないことで毎回まったく新しい表現が生まれ続けたわけです。

この建物から徒歩30秒のRoyal Vesselという建物も梵さんの作品です。

 

②ワセダエルドラド(ドラード早稲田)

早稲田駅の近くのマンションです。梵さんもここに住んでいます。一階のギャラリーでは梵さんの絵葉書などを売るとともに、前衛的なアーティストの紹介も行っています。1階のかなりの空間が常時解放されているので、普通に見に行く場合最も見ごたえがある建物です。

ここから徒歩5分ほどの何の変哲もない戸建て住宅。実はこれも梵さん最初期の作品だそうです。コンクリート壁の装飾が僅かに梵さんらしさを見せます。

 

③和泉の門(ラポルタ和泉)

京王線代田橋駅からすぐの上記の作品以上にド派手な彫刻が貼りついた建物です。

これらが全て左官仕上だというから驚きます。

内側から。派手なだけでなく、実際の演出効果を計算して作られているのが分かります。

巨大な吹き抜け。少なくとも国内にはこんなものを作る建築家は他にいません。

扉のデザインは特にガウディを思わせます。

 

③舞都和亜(まいんどわあ)

1階のディリーヤマザキが逆に目立ちます。

ゴミ捨て場までド派手です。

今回は中庭も特別に見ることができました。映画で使えそうな空間です。床の模様はクジラの尾です。

壁の装飾。今では材料を手に入れるのも大変そうです。

 

巨大なステンドグラス。教会建築の影響を感じますが、特定の宗教に傾倒してないのも特徴です。

扉の天井。細かいところまでデザインされつくされています。梵さんは場所だけ提供し、あとは職人さんが勝手に作ったとのこと。

中庭の謎の彫刻。これも梵さんは場所を提供しただけです。

外部階段より。周囲に高い建物があまりないので眺めもいいです。

 

④向台老人ホーム

多摩モノレール上北台駅から徒歩15分程度。都内で見れる唯一の住宅以外の梵寿綱です。

遠くから見ると形態は抑え気味ですが、近づくとその作り込みは健在です。

老人ホームと言っても実際は終末施設。つまりお年寄りが最後の時を過ごす場所です。なのでこの玄関も出棺される特別な場所でもあります。

屋上では篠山紀信さんが写真を撮ったこともあったそうです。

こちらがその出棺の際の扉です。

このあたりの作品もアーティストのコラボレーションです。

老人ホームに相応しい(?)色々な飾り付けがなされていました。

廊下の上部にはステンドグラスで季節の行事が表現されています。利用者はこれを見て懐かしい思い出に浸ります。この施設は例外的に装飾も梵さん自ら指示している物が多く、梵寿綱建築を学ぶ上で重要です。

上階にも様々なスペースに作品があります。

階段部分は特にこだわりが見えます。ガウディよりもむしろフンデルトヴァッサーハウスを髣髴させます。

曲面を多用したフンデルトヴァッサーハウス

最大のウリのひとつである浴室。表現的であるだけでなく、スロープを多用して安全かつ多彩な空間を実現してます。

納棺室の扉のデザイン

  

クライマックスである納棺室。宗教的なものを排除した結果、「大いなる手に導かれる」という表現に行きついたとのことでした。

 

まとめ

➀何が出るか分からないビックリ箱建築

前述したとおり、梵建築の装飾はほとんど職人さん任せなので、完成するまで何ができるか分かりません。管理しないことで毎回違う多様な表現が実現しました。

 

②実は低コストな材料費

非常にレアかつ多様な材料を使っているのでコストを圧迫しそうですが、実は梵さんは国内外から安く材料を手に入れるテクニックをお持ちで、ほとんどコストはかかっていません。ここが構造的に無理のある建物を建てたり、趣味的に最新技術に凝ったりする他の建築家と違うところです。

 

③ヒューマンスケールな建築

特に老人ホームに顕著でしたが、どの建物も利用者を楽しませようというサービス精神に富んでいました。建築ジャーナリズムを標的にした建築は見栄えばかりで竣工後は全く機能しないことも多いですが、梵さんの建築は竣工当初からほとんど形態を変えずに使われているものが非常に多いのもそのせいです。

 

他にも梵さんの建築は全国にあるみたいなので機会があれば回ってみたいです。ナンコレ度★★

コメントを残す