• 日々観た展覧会や関連書籍の批評をしていきます。

★★ひたすら晴海団地!「しとやかな獣」

映画「しとやかな獣」を見ました。

映画内の数少ない高層アパートが出るカット

映画の舞台が晴海団地なのですが、一家の住まいは前川國男設計の高層アパートではなく、その周りの5階建ての普通の団地です。

またこの映画、ほぼ全シーンが団地の室内と廊下、階段だけで構成されます。団地の外観は映画のラストに出るのみ。

他は団地内から下を見下ろしたり・・・

双眼鏡で外を見るシーンがわずかにあるばかり。晴海は今でこそ銀座に徒歩で行ける超一等地ですが、この頃は工場しかない殺伐とした場所でした。

ストーリーは前田一家4人が住むこの団地の一室に色んな人物が入れ替わり立ち代わり訪問することで成立しています。

能の舞台のようなBGMを使っており、このマンションの一室を能の舞台に見立てているようです。

そのため部屋はいろんな角度から執拗に撮られています。

マンションからの眺めをバックにした映像も印象的ですが・・・

もっともインパクトがあったのがマンションを外から撮影したシーンです。

ワイドスクリーンの効果が非常に際立っています。

またマンションの階段も重要なシーン。

演出上こんなせまっ苦しい殺風景な階段にしたのかと思いましたが、どうも当時の団地の階段はこれくらい殺風景だったようです。

 

物語は元海軍中佐の父親とその妻、長女、長男の4人を中心に進みます。

父親は長女をベストセラー作家の2号に仕立ててお金を巻き上げ、さらに長男にも芸能プロダクションのお金を横領させます。

一家はそのお金で豪勢な暮らしを享楽します。当時は団地住まいで冷蔵庫、テレビ、ラジオなどの家電製品が揃っているとあれば、相当な暮らしだったのです。

しかし本当に悪辣なのは芸能プロダクションの会計係の女性であり、しかも登場人物はみなスネにキズ持つものばかり。

 

この映画は戦後の高度経済成長期の世の中の矛盾や欺瞞を鋭く突いたもので、その道具立てとして晴海団地と西洋式の生活が用いられたようです。

ひたすらマンション内のシーンのみで物語が進行するという映像の特異性が楽しい作品です。★★

コメント一覧

もっと団地を「ザ・ホード 死霊の大群」 – 博司のナンコレ美術体験2019年1月13日 8:35 PM / 返信

[…] 肝心の団地映画としての出来は「しとやかな獣」の足下にも及びません。 […]

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