• 日々観た展覧会や関連書籍の批評をしていきます。

★★生命の多様性といやらしさ「うたう命、うねる心」

スパイラル(青山)の「Ascending Art Annual Vol.3 うたう命、うねる心 若手女性作家グループ展シリーズ」【2019. 7.4 -7.23】を見てきました。

 

 

 

女性作家3人のグループ展です。どの作品もかなりインパクトがあり、最近大人しかったスパイラルが久しぶりにやってくれた展覧会でした。

 


笹岡由梨子 「GYRO」

初めに登場する笹岡由梨子氏の作品は、自然との共存がテーマ。

自然は対決し征服する対象だった西洋に対して、日本は自然の猛威を「許して」来たといいます。本作では人体のパーツを使った悪魔的な造形な生物が大量に画面に登場し、中央最奥の人物が「認めます」「許します」とつぶやき続けます。

 

この大モニターの両端にも小さなモニターがあり、左側ではルームランナー上を走る精霊風の人物。

 

右側でも精霊風の被り物をした5人の人物が組体操のような無音劇を繰り広げます。

この左右の寸劇は人間には理解不能な自然の理を示しているのでしょうか?

 

そう考えると中央の悪魔的造形の数々も人間業とは思えません。

これらと共存を図ってきた人類の歴史を思わせる作品です。

 

 

 

大小島真木「鯨の目」

続いて大小島真木さんの作品は複数の巨大な布製の鯨が巨大空間に浮かんでいる作品です。時々鯨の鳴き声が響きます。

 

大小島真木「海、生命のスープ」

同時に展示された映像作品では親子の鯨のコミュニケーションと、死んだ鯨が様々な生物に食べられていく様を捉えていました。

 

大小島真木「海の血」

大小島さんはそこから鯨内の生命の循環に思いを馳せ、作品を作りました。5匹の鯨にはそれぞれ作品名が付けられています。

この鯨は大量の生物の骨が内包されており、かなりおどろおどろしい感じです。

 

大小島真木(上)「時間の胎内‐地上に生を受ける」 (下)「核と光-この大地は祖先から譲り受けたものではなく、孫たちから借りている場所」

人類のものを含む歴史を表現したものと、核の脅威を表現した作品です。鯨にはあらゆるものが含まれているという発想でしょうか?

 

大小島真木(上)「世界の家」

一際美しい作品。胸鰭には孔雀の羽根を使用しています。

 

 

川越ゆりえ「弱虫標本」

最後は川越さんの大量の架空の昆虫の標本。量においても、発想においても狂人的、悪魔的なものを感じます。

 

川越ゆりえ「羽化」

よく見ると割と普通にいそうな虫もいるのですが、やはり奇抜な恰好をしているのが面白いです。

 

川越ゆりえ「羽化」 (部分)

特にこの「羽化」は絵画作品を思わせる虫を発見できました。

こちらはモンドリアン風。

 

川越ゆりえ「羽化」 (部分)

これはヒエロニムス・ボス風でしょうか?

 

川越ゆりえ「羽化」 (部分)

極めつけはこちら。ナム・ジュン・パイク風です。

 

 

川越ゆりえ「嫉妬心からの標本」

珍しく単一のイメージによって作られた標本群です。

草間彌生にも通じるいやったらしさがあります。

 

川越ゆりえ「昼と夜」

他の標本箱も昆虫という共通項はありますが、様々なコンセプトに基づいて制作されており、先ほどの鯨と同様、昆虫もその多様性によって様々な可能性のある生き物だと感じました。

スパイラルの展示は嫌われるのを恐れない、嫌ったらしい展示が多いので見ごたえがあります。★★

 

コメント一覧

★Re construction 再構築 – 博司のナンコレ美術体験2020年10月11日 1:48 PM / 返信

[…] 流麻二果、青山悟、冨井大裕、大小島真木の4名の作家さんに各一部屋ずつ割り当て、美術館の収蔵作品と自身の新作を組み合わせて展示空間を構築してもらうという企画です。 […]

★Re construction 再構築 – 博司のナンコレ美術体験 にコメントする コメントをキャンセル