広島市現代美術館の「開館30周年記念特別展 美術館の七燈」【2019年3月9日(土)〜5月26日(日)】を見てきました。
横浜美術館と同様、開館30周年の企画展です。
横浜美術館は収蔵品の紹介が中心でしたが、広島では加えて
が展開されており、見ていくとこの美術館の活動方針が見えてくる、貴重な試みでした。
それに反映してか、展覧会カタログの写真には大量に会場風景が使われていました。
見どころを作家別にピックアップしていきたいと思います。
美術館の活動の紹介の一つとして、作品の補修や収蔵についてがありました。
現代アートは表現の形態が多様化し、保存が困難なものも多数あります。
この作品はまさに修復を施している最中で、公開製作ならぬ公開修復の最中でした。
こんな展示は初めて見ました。
1989年開館の広島市現代美術館は公立としては国内初の現代美術館です。
これは原爆の被害により古典的な作品が失われたせいだと言われています。
開館に当たっては国内外78人の作家にヒロシマをテーマにした作品の制作を依頼し、そのまま収蔵しました。
これは地域アートの先駆けで、公共美術館が高価で地域とは何の関係もない海外作品を購入する批判をかわす意味でも大変効果的でした。
今回の展示では若林氏の大型作品が印象的でした。若林氏の作品は晩年になるに従って大型化、インステレーション化、環境化していく傾向があり、見ごたえがあります。
本作もヒロシマの悲しい記憶を感じさせる作品になっています。
美術館の地下の廊下には唐突に飯川氏の巨大な作品が唐突に出現。
森美術館にも同時に展示されているので、こんな巨大作品が2点も製作されていたことが分かります。
今や全国区の彼ですが、本作はもともとゲンビどこでも企画公募という本美術館での公募作品です。
トイレに向かう廊下を占拠しており大変邪魔です(笑)。
本来ここに合わせて作られた作品だけに、天井高さもぴったりです。
飯川氏は他の作品も展示されており、これは美術館内にバックを放置するという作品。
中には10kgの重りが詰まっており、観客がバックを持ち上げようとする動作自体を作品として取り込んでいます。
館内にはどこにでもあるバックが数個、さりげなく放置されていました。
第4回ヒロシマ賞の受賞作家です。
ヒロシマ賞とは「ヒロシマの心」を表現した作家に贈られる賞で、受賞作家は本美術館で個展を行います。
歴代受賞作家は特に国外作家は聞いたこともないような作家が多く、個性的な試みです。
この作品は広島の子供をリサーチして生まれた作品で、背中のモニターに装着者の目が映し出され、間接的に相手の目を見て会話することができます。
作家の狙いはお互いの悩みを吐露することで相互理解を進めることにあったそうです。
このように直接原爆を感じさせない平和を希求する作品も多く展示されていました。
本作もゲンビどこでも企画公募の応募作品です。
本美術館の常設展示室には光庭があります。
地上階の外部空間とつながっており、地下の常設展示室に自然光を入れたり、野外作品を展示することもできます。
が、実際には締め切っており、あまり活用されてこなかったようです。
有川さんは作品はこの半端な空間を積極的に活用するものです。
作品は椅子、望遠鏡、カウンターと映像からなります。映像では有川さんが何かをカウントしたり、望遠鏡を覗いたり、掛け声を上げたり「仕事」をしていますが、具体的にどのような仕事なのかは語られません。
誰も立ち入れない無駄な空間で無駄な仕事をひたすら孤独に続ける様はユーモアを感じます。
同時にここだけでなくどの美術館にも同様に活用されてない空間が大抵あるもので、美術館というハコモノへの痛烈な皮肉にも感じられます。
ちなみにこの作品は展示室の外からも観ることができます。誰もいない光庭から音が響き渡るのは結構シュールです。
逆三角形状に土台が組まれ、その上にブラウン管が並んでいます。
目まぐるしく変化する映像は3種類で、広島に関するものです。
同じ映像がV字状に並んでいます。
パイクの作品はどれもブラウン管ですが、そのため近年展示が困難になっているようです。
この大型作品は国内ではキャナルシティ博多に次ぐ規模かも?
この美術館の野外彫刻は美術館の代表作であるとともに比治山のシンボルでもあります。美術館の正面に立つとともに向かう先は比治山の展望台で、原爆ドーム方向を一望できます。
今回の企画展ではこのムーアの作品をはじめ、野外彫刻を大きく取り上げていました。
いつも見ている作品ですが、これをきっかけに色々読み取れそうです。
この美術館自体が建築家・黒川紀章さんの作品でもあります。
しかし今回の企画展では美術館の成立過程を詳しく取り上げており、広島市の比治山の開発計画など興味深い内容でした。
黒川氏のスケッチなども大量に展示されていました。
田村氏の作品は場所や物が持つ歴史や記憶を踏まえたものが多いです。
結構長い映像作品も多く、観るのがつらいのですが今回の展示は出色。
上記の開館当時の写真をもとに、そのころの美術館のロビーを地下に完全再現。電話する女性を元に妄想ストーリーを作り上げるというものです。
締めくくりも美術館の30年の歴史を感じさせる作品で、ちょっとしたタイムスリップ体験ができました。平静を振り返る意味でも面白い企画かも知れません。
2019年展覧会ベスト – 博司のナンコレ美術体験2020年1月6日 10:30 PM /
[…] 2位.美術館の七燈 […]