• 日々観た展覧会や関連書籍の批評をしていきます。

★渋谷アングラカルチャーの象徴「現代演劇ポスター展2017-演劇の記憶、時代の記憶、デザインの記憶、都市の記憶」

渋谷で開催の「現代演劇ポスター展2017-演劇の記憶、時代の記憶、デザインの記憶、都市の記憶」【2017 年12 月21 日(木)~2018 年1 月10 日(水)】に行ってきました。

渋谷駅周辺

渋谷ほどアングラな雰囲気を持った街もないと思います。新宿も結構アングラですが、新宿が坂の下の歌舞伎町と上の伊勢丹の通りでそれなりに色分けできるのに対して、渋谷はより起伏が複雑かつ路地も迷宮化しており、大型百貨店とストリートカルチャー系ショップ、飲み屋街、風俗店などが複雑に入り乱れたカオス空間になっています。今回の主催であるポスターハリスギャラリー自体が、路地の奥にあって初めての人は辿り着くのが大変だと思います。

工事中の宮下公園

今回の催しはこのような複雑な渋谷の街を3つの会場を巡りながら演劇ポスターを見るという趣向です。

 

➀渋谷ヒカリエ9階 ヒカリエホール

まずは駅直結のヒカリエ9階へ。怪しげな会場前に立つのは等身大パネルになっているのはハリスポスターカンパニー主催笹目浩之氏だと思われます。

笹目氏は寺山修司にポスター貼りを頼まれたことをきっかけにこの業界に入り、現在はアングラ劇のポスターの保存と展示、アングラ劇の支援を行っています。

霊界の寺山修司からお祝いのスタンド花が!日常に嘘を紛れ込ませ、日常と演劇の垣根を取っ払おうとした寺山さんらしい演出です。

看板の裏から除く寺山氏。

二次元と三次元の壁も突破しています笑

 

会場の各所に置かれた刺さる言葉が描かれた卒塔婆

市中劇「ノック」のワンシーンだと思われる巨大横断幕。

 

会場の基本構成は天井からピアノ線でポスターを2段から3段吊るしたクールな構成。

トークイベント時にはポスターを引き上げて客席にできる合理的設計です。

横尾忠則「土方巽と日本人」

横尾忠則などお馴染みのポスターもありますが、はじめてみる未知のポスターに惹かれます。

篠原勝之「唐十郎版 風の又三郎」

ポスターで全く原作と関係ないことを暴露しています。前景の又三郎と後景の戦闘機も清々しいほど無関係です笑

篠原勝之「うお傅説」

これも謎めいた作品です。転位21、うお傅説、そしてトノサマバッタと何一つ理解できませんが、下北沢では今でもこんな不思議な劇をやっているんでしょうか?

篠原勝之「唐十郎版 俳優修業」

巨大なピストルに狙われる女優。篠原さんという人は関係ないイメージを唐突にぶち込むのが好きみたいですね。下部のムンク版画展の宣伝も妙にマッチしてます。

篠原勝之「ユニコン物語 台東区篇」

砂浜を改造自転車で疾走する美女。右上にも謎のアオリ文があります。

台東区をゆく迷宮降下者の群れ。その手に握られた赤い毛糸はなに!目をあげれば、列島そのものが大きな台東区であったのだ!!

 

ごらん、お春さん、風がデタラメに吹いている(何かが風に舞う)
サルマタまでが宙に舞い、カツ丼は、さらにさらに重く運ばれてきて(カツ丼が通ってゆく)ああ、なんていい加減な夕暮れなんだ!
ごらんお春さん、森永と明治と、雪印のミルク缶が、豚のクソをこびりつかせた侭、大空を浮いている。なんていい加減な夢の安保条約なんだ!

あらゆるいい加減さがそのまま商業ベースに乗った、いい時代だったんでしょうね。

田中一光「椅子と伝説」

現在も前衛劇の新作を出している別役実の脚本作品です。上記とポスターとのテンションの落差が面白いです。

 

 

②渋谷キャストスペース

今年オープンしたばかりの新ビル。宮下公園の道路向かい、光る柱と、巨大な手が目印です。

やはり卒塔婆や巨大な手がたくさんあります。

象六海・イラスト、松隈宣浩・デザイン「廃墟の森のディアスポラ」

前景にはこの会場の目の前にある渋谷の高架下、後景にはバベルの塔。足元ではヒエロニムス・ボス の絵画に出てきそうな巨大魚に丸のみにされる人々首都直下型地震が迫る中、奇想のようでいて妙にリアリティを孕む作品です。

 

末吉亮「ミッション」

近年のポスターも展示されています。これは2012年の作品。近年の作品は写真だけだったり、抽象的なイメージだけだったりして面白いものがあまりないですが、これはポップな色使い、発光して飛んでいくゴミ袋と前の世代の無責任なイメージを引き継いでいます。

 

③アツコバルー

bunkamuraの奥、特徴的なファザードのビルの5階です。

都築響一監修のラブドールの展示など、ポスターハリス以上に攻めているギャラリーです。

粟津潔「人命救助法」

色使いが一発でそれと分かる粟津潔の作品。後景に浮かぶバラバラになった人体のモチーフが面白いです。文字部分も一体にデザインされてます。

赤瀬川原平「セチュアンの善人」

これも一発でそれと分かる赤瀬川原平の作品。マッチ箱、タバコのパッケージなど小さな日用品で世界観を構築するのは赤瀬川さんらしい。

スズキコ―ジイラスト、奥秋圭デザイン「第三帝国の恐怖と貧困」

絵本作家のイラストをそのまま使っています。タイトルに反してどことなく楽しげなのは近年のヒトラーをおちょくる作品の数々の影響でしょうか?

加藤賢策、中野由貴「錆から出た実」

今回のポスター展で唯一見たことのある劇でした。現代芸術家の束芋のアニメにダンスと音楽が付く作品で、このポスターも束芋の作品の寄せ集めだと思われます。

中村宏「D53264機にのる友達ビオレット・ノジエイルの方へ つねに遠のいてゆく風景 PACIFIC231機にのる舞踏嬢羊子」

中村宏さんらしい色使いに、なぜか劇のタイトルも中村さんっぽい。これで一つ目の女子高生がいれば完璧なんですが。

 

80年代の疾走を振り返るとともに、現代のポスターも同時に展示して未来につなげているのが見どころです。今後のアングラ劇の展開にも期待したいです。ナンコレ度★

 

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演劇ポスターはなぜ人を引き付けるのか?笹目浩之「ポスターを貼って生きてきた」 – 博司のナンコレ美術体験2018年1月28日 1:38 AM / 返信

[…] 2017年末には大規模な演劇ポスター展も開催しました。 […]

演劇ポスターはなぜ人を引き付けるのか?笹目浩之「ポスターを貼って生きてきた」 – 博司のナンコレ美術体験 にコメントする コメントをキャンセル