森美術館(六本木)の「塩田千春展:魂がふるえる」【2019.6.20(木)~ 10.27(日)】を見てきました。
塩田さんは赤い糸を使ったインスタレーションがインパクトがあり、記憶に残っています。
それ以外に瀬戸内海の島で窓枠を使った作品なども知られていますが、典型的なコンセプチュアルアーティストであり、活動拠点であるベルリンの風土も相まって難解なイメージを持っていました。
しかし、今回出そろった作品の中には写真や映像だけとはいえ初期の作品も多く、近年の漂白された作品にはない魅力を放っていました。
インスタ映えだけでは分からない塩田さんの作品の魅力をピックアップしてみました。
ベルリンでのインステレーション展示の再現です。
人間の皮膚が第一の皮膚、服が第二の皮膚、部屋の壁や窓が第三の皮膚として窓枠に着目したそうです。
ただこの作品より、一緒に展示されていた作品に使った窓枠を取り出したと思われるビルの写真作品の方が衝撃でした。
東ベルリンの解体前のビルの写真と思われますが、通常のビルに窓枠がなくなるとここまで廃墟じみて見えるとは・・・
ビルの上に座った作業員も構図が決まっています。
黒い糸が張られた透明の箱にドレスが2着浮かんでいるように見えるのですが、対角線上に鏡が仕込まれており、実際にはドレスは一着です。
塩田さんには珍しいだまし絵的テクニカルな作品です。
干からびたサヤエンドウの莢を直線状に貼り付けた作品です。
上記は塩田さんが学生時代に制作した、最後の絵画作品です。
塩田さんは線を引くことによって自己表現することに強い違和感を感じたと言います。
サヤエンドウの作品はその2年後に留学先のオーストラリアで制作されたとのこと。
この辺りは塩田さんの考えの軌跡が見えて面白いです。
また初期の作品は自身が作品に参加する形式のものが多数あり、これもその一つです。
糸を使う理由は色々ありそうですが、一言で表すなら伝達するということでしょうか?作家本人が含まれるこの作品はその考えがストレートに伝わっていきます。
絵になる夢を見たことをきっかけに制作された作品です。
エナメルを被り、身にまとうのはキャンバスです。
スプラッター映画のヒロインにしか見えない異色の作品です。
床に神を置き、部屋中に黒い糸を貼り、赤い絵の具を垂らすと自動的に絵画が完成するというもの。
先ほどのサヤエンドウの作品と同様、作家の作為を消す意図があると思われ、また自然の法則に着目して製作されている点でも共通しています。
バックに東京の夜景が見える、インスタ映えする空間での展示です。
大漁のミニチュア模型が床に置かれ、お互いが赤い糸でつながっています。
記憶というだけあって、過去の塩田さんの作品を思わせる部分もあります。
この鍋から糸が噴き出る作品とか見てみたいですね。
ソファーを縛り付ける巨大な縫い針や唐突に置かれた消火器など、他の塩田さんの作品にはないユーモアがあります。
ベッドの上に置かれた巨大な心臓?など未知のイメージも。これからの作品の構想でしょうか?
大量のスーツケースが階段状に宙に浮かび、空に向かって上昇していくというインスタレーション作品です。
スーツケースの中にはガタガタ動くものも混ざっており、旅の期待感を抑えられないかのようです。
部屋全体に黒い糸が張られ、焼けたピアノと椅子を縛り付けています。
塩田さんの子供の頃の、隣家が火事に遭いピアノだけが燃え残っていたという記憶に基づいた作品です。
観客席と思われる椅子群も全て座面が焼けてなくなっており、音の出ないピアノ、座れない椅子と不在性が強調されています。
一見凄惨な作品ですが、塩田さん自身が燃えたピアノに美を感じたと言っているように静謐な美しさを感じる作品です。
泥まみれの巨大なドレスをシャワーで洗い流すというインスタレーションです。
上から水で流したぐらいで布に染み込んだ泥は殆ど落ちません。
泥は人の皮膚に染み込んだ記憶であり、なくすことができないというイメージです。
このテーマはバスルームで泥をかぶり続ける最初のビデオ作品「バスルーム」でも共通するテーマです。
大量の人が寝ているベッドが置かれた空間に黒い糸が張り巡らされています。
蝶になる夢から目覚めた人が、夢と現実の区別がつかなくなる、という中国の古典に着想を得ています。
塩田さんは様々な手法で人の身体や記憶に切り込んでいきます。
一見難解な作品が多いのですが、それが理解できるともっと身近に作品を感じることができそうです。
燃えカスを作品化したり、衣服を使ったりするのは遠藤利克氏やボルタンスキーを思わせますが、意外にも作品のテーマは彼らより分かりやすく共感できるもので、好感を持ちました。★★★
★★「MAMスクリーン011: 高田冬彦」 – 博司のナンコレ美術体験2019年7月30日 7:40 AM /
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