• 日々観た展覧会や関連書籍の批評をしていきます。

★★★日本の真の伝統「日本の素朴画」

三井記念美術館(日本橋)の日本の素朴絵【7/6-9/1】を見てきました。

 

奇想の系譜展へそまがり日本美術に続くともいえる展覧会です。ただこの2つは著名人や高名な画家が描いた作品がメインだったのに対して、こちらはよくこんな絵が捨てられずに残っていたなという低クオリティの作品ばかり(失礼!)。

いわゆる現代のゆるかわに連なるような作品が多く紹介されています。展覧会カタログの表紙も(中身もですが)未だかつてないほどのユルさです。

このゆるかわは一番古くから見れば古代の土器から見ることができ、西洋のハイアートと全く違う日本独自の文化といえそうです。

またその絵画が語るストーリーのユルさにも注目です。源氏物語や枕草子だけが日本文学じゃない、むしろこっちのほうが庶民に親しまれた文学だという気もしてきます。

 

特に気に入った作品をピックアップしてみます。

勝絵絵巻(室町時代)

室町時代の作品で、三井記念美術館が所蔵しています。

おならで勝ち負けを決めるというあまりにも馬鹿らしい小学生の妄想みたいな内容で、三井はよくこんな作品を大事に取ってたな、よくやった!という感じです。

「勝絵」とは勝負事を描いた絵のことをいい、武士が出陣の際持参する縁起ものである、という真面目くさった解説も素晴らしい。

因みに解説によると春画も縁起のいい絵らしいです。。この絵も春画も性器が露出しており、性器=生命の神秘のパワー=神秘のパワーで敵に勝つとのこと。

ここまで来るとこじつけで、おバカな絵や春画を所持している言い訳にしか聞こえません。

 

絵入り本「かるかや」(室町時代)

同じく室町時代の作品。

物語は武士が出家して仏の道を究めるというもので、結構真面目なのですが、絵の内容は、極端にディフォメされた神々、屏風と平行に浮かぶ布団、おでんか団子にしか見えない燈篭などどこまで本気なのか分からない不条理さがステキ。

解説によると室町時代は素朴絵が極まった時代とのことですが、それって日本人が一番絵が下手になった時代ってこと?

 

つきしま絵巻(室町時代)

やはり室町時代のもの。

物語は平清盛が工事の無事を願って生贄をささげるというもので、これも宗教テーマ。なのですがにしてはあまりにもほのぼのとした絵柄。思い切った三等身描写は現代のアニメに通じるものがあります。同じ顔、同じ服、同じポーズとまったく描き分ける意思がないのも潔い?

 

おようのあま絵巻(室町時代)

「おようのあま」とは「御用の尼」と書き、訪問販売と御用聞きを合体させたようなもの。

お坊さんのもとに「身の回りの世話をする公家の娘を紹介する」と尼さんがやってきます。が結局娘が見つからず自分が変装してお坊さんのもとに偲ぶという話です。

絵と合わせてあまりにも脱力してしまう世界観です。室町といえば世が乱れた時代ですし、こういった癒し?が発達した一助になったのかも。

 

小藤太物語絵巻(室町時代)

子どもが蛇に食べられてしまった雀夫婦が弔問の旅に出るという話。子の話もまた宗教チックであり、この時代の宗教の果たした役割の大きさに驚きます。

着物の袖から覗く雀の脚や、植物などは上手く描けている一方、建物の柱が平行に描けていないなど、その技量は安定しません。

雀が擬人化していない別の描き手の作品もあります。

また同時に猿やネズミが主人公の作品も紹介されており、どれも「まんが日本昔話」みたいなゆるい話でした。

 

大津絵「鬼の念仏」「鬼の行水」(江戸時代)

大津とは現在の滋賀県にある東海道の最後の宿駅であり、大津絵とはそこで売られていたお土産用の絵です。

宗教が絡まない普通の絵も多く、クオリティが低い代わりに種類は豊富です。

展示では鬼を描いたものが目立ちましたが、可愛らしいものが多かったです。

 

十王図屏風(江戸時代)

地獄絵は数年前話題になった五百羅漢図展などでその迫真の描写が印象に残っていますが、このジャンルのユル絵も多数存在します。

よく見るとかなり残酷な目にあっているのですが、描写が緩すぎて一切伝わりません。

現在のヘタウマに通じる漫画チックな描写も目立ちます。

10枚一組なのですが同一人物のはずのエンマ大王の顔が全部違うのはどうしてなのでしょうか?

10枚中8枚しか展示されていませんでしたが、こうなってくると残り2枚も気になるところです。

 

漂流記集(江戸時代)

謎の漂流船とそこから出てきた女性を記録したもの。

船の形態はどう見てもUFOで、女性は昭和の東映SF映画に出てくるエイリアンみたいな恰好をしています。

 

大阪城堀の奇獣(江戸時代)

 

江戸時代のUMAは宇宙人だけではありません。

このゴジラをメタボにしたみたいな生き物は色んな文献に目撃例が記載されており、見間違いにせよこんな生き物がいたのは事実らしいです。

 

白隠「蘭蟷螂図」

禅僧が教えを伝えるために書く墨画を禅画といいますが、白隠はそのチャンピオンです。

つぶらな瞳のカマキリは現代の擬人化に通じるものを感じます。

 

仙厓「曲馬図(博多津)」

仙厓は白隠からかなり時代が下った江戸末期の禅僧。

大げさな曲乗りの描写はやはり現代の漫画に通じます。

人も馬もディフォメ化されていてカワイイ。

 

南天棒「雲水托鉢図」

今回の展示で最も萌えた一点です。

雲水が列をなして托鉢してるだけの絵がここまで可愛くなるとは・・・

この作品だけ大正時代のもので、明治以降も素朴絵の伝統が引き継がれているのが分かります。

 

他に立体としてユルい埴輪や狛犬、円空や木喰の木像など立体も充実していました。

他で見れないレアな作品も多く、宗教や歴史が分からない人にも楽しめる展覧会です。★★★

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