• 日々観た展覧会や関連書籍の批評をしていきます。

★★技巧だけと言わないで「吉村芳生 超絶技巧を超えて」

東京ステーションギャラリー吉村芳生 超絶技巧を超えて【2018年11月23日(金・祝)-2019年1月20日(日)】を見てきました。

東京駅構内にある美術館です。

展覧会とは直接関係ありませんが、東京駅周辺の模型が追加されていました。

 

吉村芳生氏は新聞紙に自画像を描いた作品で有名です。

年表によるとその活動の大半は地元の山口県をはじめ、岡山、広島など中国地方に限定されており、それもデパートなどの展示が中心だったようです。

2006年森美術館で紹介されてからは有名になりましたが、それでも生前都内で個展が開かれることはなく、今回が初になります。

吉村芳生「365日の自画像」

吉村氏といえば自画像であり、そのキャリアの最初期からついて回りました。

365日の自画像」は自分の写真を1年間毎日撮り、それを精密に鉛筆で模写したもの。

9年かけて完成し、本としても出版されています。

吉村芳生「SCENE」

SCENE」は金網を17mに渡って、執拗に描いたもので、初期の代表作です。

写実画としても描き甲斐のない題材を選んだのは、吉村氏が「単一のパーツが集合して全体を形成する」ことを好んだためだと考えられます。これはのちの花の作品でもいえることです。

吉村芳生「ドローイング ジャパンタイムズ」

初期の新聞ドローイング作品です。地元、山口ではこの鉛筆画を版画にして積み上げた作品で賞を獲ったそうです。

吉村芳生「ジーンズ」

この頃は黒鉛筆のみで制作し、それを版画にしていたようです。

吉村芳生「SCENE 85-8」

題材はジーンズの他、家に落ちていた死んだ蠅、近くの川辺など身近なものばかりです。

どうも日常的な題材を選択することで、機械的な製作姿勢を貫きたかったようです。

その手法は

①紙に一定間隔の方眼を描き、

②題材をとった写真を重ね合わせ、

③方眼内に濃淡を表す1~10の数字を書き、

④数字の数だけ方眼に斜線を引く

というシステマティックなものでした。
吉村芳生「コスモス 徳地に住んで見えてくるもの」

2000年以降は色鉛筆で花を描いた大型の作品が登場します。

花を題材に描いたのは「売れる絵」を描く必要性に迫られてのことでしたが、描く際の「執拗さ」がここにも表れており、独特の世界観を形成しています。

しかし完成した絵をガムテープでダメージ加工を施すなど、ただ写実的に描くことには違和感があったようです。

吉村芳生「未知なる世界からの視点」

今回最大の作品です。

10mにも及んで菜の花が描かれています。

菜の花そのものと、水面に映った菜の花を描いており、背景色から下が水面下と思いきや、よく見ると上下が逆転していることが分かります。

ここでも水面に映った菜の花を描くことで、完璧な模写への疑問を呈しているのでしょうか?

 

吉村芳生「無数に輝く生命に捧ぐ」

一方藤棚の作品は東日本大震災を受けて描いたもの。

花一つ一つが被災者の生命と思って描いたとのこと。

解説によると、写真を複写し組み合わせることで、現実には存在しない横長の藤棚を描いているそうです。
背景をなくすことで抽象化を高めています。

吉村芳生「新聞と自画像」
最後の空間では新聞を使った作品が大量に並びます。
新聞1年分のシリーズもあります。
新聞そのものに自画像を描いたバージョンと、新聞を拡大して模写し、その上に描いたバージョンがあります。
どちらも自画像の表情(というよりリアクション)が記事の感想代わりになっています。
顔が歪むほどのオーバーリアクションになっているものも。
しかし日本も新聞離れが進んでいるので、今後はこういう表現も難しくなるかもしれません。
吉村芳生「コスモス(絶筆)」
ちなみにこちらが絶筆です。
方眼を引いて1マスごとに描いており、初期の金網の作品から一貫した繰り返しの機械的製作姿勢が貫かれていることが分かります。
新聞の作品だけではない、初期から最晩年までの作品が俯瞰できる、お得な展覧会でした。★★

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