大阪市北区のアートコートギャラリーで開催中の「村上三郎展」(2017.10.14 [sat] – 12.09 [sat])を見てきました。
ギャラリーのある場所は高層マンションの一角、しかも目の前は大川という超一等地です。
そんな大阪の超一等地で行われた個展が関西のエリート芸術集団「具体」のメンバー村上三郎(1925-1996)です。
さて、村上三郎といえば「入口」、「入口」といえば村上三郎、というよりそれ以外思いつきません。
村上氏はこの紙を破りぬけるパフォーマンスにて一躍有名になりました。
近年では国立新美術館での『「具体」-ニッポンの前衛 18年の軌跡』でも入り口に展示されていました。
手元にあった上記展覧会のカタログを見ると1955年の「第一回具体芸術展」で既に「六ツの穴」など複数の「入口」系作品が発表されていたようです。
今回の展覧会は「入口」系以外の村上氏の作品を合わせてみることで、その考えを深く知る機会となると思いましたが・・・
肝心の「入口」以外の作品はいわゆるアンフォルメルという以上の印象は受けませんでした。「具体」はその指導者吉原 治良(1905-1972)の「人のまねをせず、これまでにないものをつくれ」という指導の下に始まりました。しかし発足からわずか2年後、フランス人美術評論家のミシェル・タピエに褒められて小躍りした吉原氏は具体メンバーに大挙としてフランスの最新の美術、アンフォルメル風絵画を描くよう指導しました。
結局、村上氏自身「入口」を超える作品は作れなかったという印象です。
ところで村上氏は「具体」の展覧会があるたびに入り口を封鎖し、オープン日に破って入場するというパフォーマンスを行っていたようです。その数は本人曰く30回以上に及ぶようで、本展覧会にも複数の「入口」のインタヴュー映像が出品されていました。
それらを見ていくと「入口」を構成する要素が見えてきました。
会場を「入口」で封鎖し、テープカットよろしく村上氏が入場するのは、「具体展」の様式美になっています。
それを示すのに好例があります。本展覧会では隅にひっそりと出品されている「出口」という作品です。これは川西市役所で行われたパフォーマンスで、作品は簡単に破れる極薄の半透明ビニール、村上氏はいつもの作業着ではなくスーツにシルクハットという出たちです。歩き進むだけの最小限の動作で「出口」を破る村上氏。そこに祝祭性はありません。村上氏は「入口」でのみ新たな作品と展覧会を祝福します。
村上氏にとって、入り口にピンと張られた紙はキャンバスでもあります。破った後の紙は作品として残るのですから、村上氏はものの数秒で「傑作」を描かなくてはなりません。動画で確認できる破るのをためらうような動作や、右上から左下に勢いよく振り下ろされた腕の動きはその表れです。
動作の軌跡はルーチョ・フォンタナとの関連もありそうですね。
子どもの頃の障子を破る遊びから本作を発送したという村上氏。しかし障子は一枚なのに対し、「入口」は紙2枚で構成されます。この違いは村上氏が作品に「空気」を取り入れたかったためです。
紙の間に空気を封入することにより、紙破りの際大きな音が出て、祝祭性を強化します。あまりの音に村上氏は失神したこともあるそうです。空気が四散すると同じ作品は二度と作れなくなり、人々の記憶の中だけに残る純度の高い芸術になります。
ところでこの「入口」パフォーマンス動画では、背後で騒々しい音が鳴っていました。おそらく田中敦子氏の「ベル」ですね。
田中氏も「電気服」など体験した人々の記憶に残る作品を多く作りました。そして「ベル」も「入口」も空気とそれが伝える音の存在が欠かせない作品です。「具体」の作品の大半は記憶の彼方へ去り、残ったのは普遍的な「音」や「光」を使った作品というのは、何か暗示めいたものを感じます。