• 日々観た展覧会や関連書籍の批評をしていきます。

参加することに意義がある★★★開発好明 ひとり民主主義へようこそ

東京都現代美術館の『開発好明 ひとり民主主義へようこそ』(2024/8/3-11/10)を見てきました。

結論から言えば、非常に良い展覧会でした。

いい展覧会とは見る前と後で、見た人の内部でなんらかの変化が起こるもののことだと思います。

その意味で本展覧会は小難しい現代美術という印象を打破し、でありながら日本や世界の問題を浮き彫りにする内容となっています。

開発さんは1966年生まれということなので今60歳前ということになります。デビュー作から現在進行中のプロジェクトまで大量かつ多彩な作品が揃っており、都内での初の大規模回顧展にふさわしい内容になっています。

会場は美術館特別展示室の3階ですが、2階ではウェルカムキットなるものを配布しています。作品リストの中には鑑賞者自身がこれを使って作る作品もあり、鑑賞者が参加しないと完成しない作品となっています。

またここには作家のインタビュー映像が流れていますが、これはインタビュアーのいない作家の一人芝居。『ここにはいかにもインタビュー映像が置かれていそう』という位置に置かれています。

特に気になった作品を見ていきます。

『365大作戦』は日本全国に開発の身長と同じ柱状の彫刻を置かせてもらい、自身が見てもらうというものです。

現状のギャラリーを通して作品を発表するというスタイルに疑問を呈した作品ですが、作品自体もベニヤ板の角柱に絵を描くというあまり現代美術っぽくない日曜日画家的な作品です。この威圧感のなさが功を奏したのか、365箇所の中には飾るというよりゴミを放置といったほうがいい置き方をされているもののあり、美術=高級のイメージを打ち破っています。

同様に『147801シリーズ』も美術のあり方を問いかける作品です。ピカソが生涯に残した作品数が147801点であり、それを上回る作品を残すことを目的としています。作品を構成する要素も最低限ですが、これが真作だと証明を受けるには、自宅で飾った写真を送る必要があります。

発泡苑は家電などの緩衝材である発泡スチロールを使った作品で、背後にあるのはミノムシ型の発砲作品と、パロディの発泡作品です。

写真はドナルド・ジャッドのパロディです。ほかのコーナーにも随所にパロディ作品がありました。

ドラゴンチェアーは2008年の府中市美術館のワークショップがきっかけです。小学生が自作した椅子を開発自身が作った頭部と繋げてドラゴンに見立てた作品です。

最後の部屋には過去の作家のオマージュ作品が多数並びます。またここに展示された『ミニ金閣寺』という作品はロンドンに仏教施設がないことから発想され、電話ボックスが即席の寺院になっています。

 

政治的テーマを孕んだ作品も多いのですが、誰かを排除するのではなくあくまで全員参加、平等こそが民主主義だと作家は考えているようです。

例えば 『投票』では賛成と反対が偏らないよう工夫されているし、100人先生は教える者と教えられる者の垣根を取っ払ったものです。

また一連の福島のプロジェクトを見ると、ノーテンキに見えて実は考え抜かれた作家の考えも伺えます。

映像作品が多いこともあり、全部見ると時間がかかります。会期中は様々なイベントが企画されているようなので何度も足を運びたい展覧会です。

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