安倍首相が英語ではいくら素晴らしいスピーチをしてもその感動が伝わらないことを怒る動画作品など、日本の特殊事情や欧米中心の社会に対する反発を度々表明しています。
また、前述のニューヨーク公開制作で完成した「ジューサーミキサー」という作品は、イチゴやトマトをミキサーに入れて粉砕される様子を連続写真に撮って製作されました。このように会田さんの作品は即物的で俗物的なモチーフにも関わらず、その描写は異常なまでの拘りを孕んでいます。
この傾向は村上隆さんと対照的です。村上さんは素材は超一流、製作は外注ですが、会田さんは素材はチープ、製作はアシスタントの技量では満足できず自ら行っています。
2人はどちらも森美術館で個展を行いましたが、その内容は対照的でした。村上さんの個展は大量のアシスタントを起用し大規模作品を大量に量産。展示された作品がほとんど2,3年以内の新作ばかりでした。その結果モチーフがいかに多様でも作品はいずれも村上ファクトリーの工業製品で、洗練されていてもイマイチ心に残るものがありませんでした。個人的には昔の村上作品も見たかったのですが・・・
一方会田さんの個展は過去の画業全体を振り返るもので、テーマのふり幅が広すぎるため極めてカオスな展示内容になっていました。放送コードに引っかかるものが大量に存在するため市立美術館でしかできない展示内容でした(実際に抗議が来たが、森美術館は無視したようです)。僕の意見としては展覧会の出来は会田展の圧勝でした。
本書のいたるところで感じるのは三潴さんの上の世代への反発です。この対抗意識が三潴さんの行動原理になっている可能性はありますが、結果として欧米コンプレックスを脱した、欧米と適度な距離を保った日本固有の美術復活に大きく貢献する結果になりました。
このことは海外アーティストの発掘傾向にも言えます。三潴さんは中国や韓国を避け、東南アジアのアーティストに力を入れています。これは中韓が既に欧米型美術に高度に適応しており、三潴さんの食指が動かなかったからではないでしょうか?
ひとりのギャラリストの著書でありながら、思いがけず日本の現代アートの将来を考えさせられる内容でした。また会田誠論としても読み応えがあります。ナンコレ度★★★