• 日々観た展覧会や関連書籍の批評をしていきます。

画家の壮大な実験の軌跡★★★Gerhard Richter – ゲルハルト・リヒター展

東京国立近代美術館のゲルハルト・リヒター展【2022年6月7日~10月2日】

を見てきました。

リヒターは現役でもっとも評価の高い作家の一人であり、このような本物の一流作家の一流の作品が日本に来るのは大変珍しいと感じます。

 

ゲルハルト・リヒター「アブストラクト・ペインティング」

内容も過去のものから最新作まで回顧展の様相で、非常に豪華です。

まずは代表作であるアブストラクト・ペインティングから。絵を特性のへらで削ると同時に絵具を引きづり、予想がつかない画面を作り出します。

支持体も様々な物が作られており、様々な技法を試して思ったイメージを作り出すまでに相当な試行錯誤が繰り返されたようです。

リヒター自身も見たことのない画面を作り出すのですから、まさに自分との戦いです。

 

ゲルハルト・リヒター「アブストラクト・ペインティング」

本作はリヒターがケルン大聖堂のステンドグラス製作を依頼された際のものです。

25色のパネルが196枚あり、ランダムの色の組み合わせの実験を数年かけてやりました。

仕事の依頼がきっかけに作品がより抽象的になった印象です。

 

ゲルハルト・リヒター「鏡」

展示室内にはただの鏡にしか見えないものもありますが、これも作品です。

 

ゲルハルト・リヒター「グレイの鏡」

特にこのグレーの鏡を通して観る風景はかなり不気味で不穏です。

今回の展覧会では多様な作品が展示されていますが、映像以外はすべて平面作品です。

リヒターが絵画を観るということを極端にまで突き詰めた結果生まれた展示空間に思えます。

 

ゲルハルト・リヒター「ビルゲナウ」

その鏡を通して観ることができるのが今回のメインディッシュである本作です。

アウシュビッツでゾンダーコマンド(収容所の死体処理などを行うナチスドイツの特殊部隊)によって撮られた写真の上にペインティングを施した作品です。

元のイメージは完全に塗りつぶされ見ることができません(ベースのものと思われる写真が別に展示されていました)。

しかしリヒターはこの不穏な画面から塗りつぶすことのできない記憶を表現したかったのかもしれません。

もっとも塗りつぶすことができないのは観る側の想像力故かもしれませんが・・・

ゲルハルト・リヒター「ストリップ」

ストリップはこれまで手で書くことに拘っていたように見えたリヒターがデジタル処理で作成した新シリーズです。

「アブダクト・ペインティング」の一枚から横幅0.3mmほどの縦帯を抽出し、横に引き伸ばすことでこのような画面が生み出されます。

「アブダクト・ペインティング」以上にリヒターの手を離れて作成される、ある種の自動絵画ですが、色彩はリヒターのものですし、過去の作品の再解釈とも言えます。

写真では伝わりませんが色の帯は実際には相当縦幅が狭く、デジタル処理ならではの画面になっています。

デジタルながら現物を見ると過去の作品に負けない迫力を持っています。

 

ゲルハルト・リヒター「アラジン」

アラジンも偶発性を取り込んだ作品で、板の上で混ぜたラッカー塗料をガラスに転写するという単純なものです。

これまでの作品に比べると単純な試みに思えますが、対策を完成させるのに必要なピースだったのでしょう。

 

(右上から時計回りに)ゲルハルト・リヒター「1998年2月13日」「1999年11月9日」「1998年2月28日」「1998年2月14日」

本展はいつもとは動線が逆になっており、向かって右側の奥が入り口になっており、細い廊下のような展示室が最後にあります。

時代も逆になっており、最後に初期から続く写真を用いた商品が展示されています。

ゲルハルト・リヒター「2014年12月8日」

これらは即興的なものに見えますが、後期の大作に通じる不穏さは健在です。

大作や新作に目が行きがちですが、これら初期作も合わせて見れるのは非常に貴重な機会だと思います。

 

アート関連本や映画には度々登場するリヒターですが、日本での美術館での個展は2005年の川村記念美術館以来。作家本人の評価がどんどん高まっていることを考えると生前最後の個展になるかも・・・★★★

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