建築図鑑、キョロロに続いて、同じく大地の芸術祭の中核施設、まつだい雪国農耕文化村センターも紹介してみたいと思います。
設計者はMVRDV。創設メンバー3人の頭文字を組み合わせた建築家集団です。オランダ出身の建築家としてはレム・コールハースと共に日本でもっとも有名ですね。
MVRDVといえばその代名詞ともいうべき、【高齢者のための100戸の集合住宅『オクラホマ』】が有名です。
『顧客側から提示された「100戸の住宅」という条件がクリアできなかったので、入らない部屋が飛び出した』というMVRDVの説明は「普通に部屋を狭くするか、建物を高くするかすればいいじゃん!」と思い、正直ウソ臭い(笑)と思うのですが、その素人にも分かりやすい説明と外観、ポップな色遣いがウケて、日本では本の表紙も飾っています。
そんな日本で大人気のMVRDVを起用しての建築、さぞかし華やかな建物なのかと思いきや・・・
あれ、なんか思ったよりもフツー。
確かにカラフルなガラスを使ったりしてますが、海外のMVRDVの建物よりも地味な色合いだし、量も抑えめ、冬場の雪の荷重を受け流すための建物の形状もユニークではありますが、なんかべったりしてカッコよくない。
屋上は構造計算をした結果飛び出した梁がそのままデザインになってますが、これもぱっと見、気づきません。
そもそもこの農舞台、北越急行ほくほく線「まつだい」駅から徒歩3分という好立地のせいか、周囲には、大地の芸術祭のメインビジュアルにも使われた、今最も人気の現代美術家、草間彌生さんの「花咲ける妻有」や、
これも知名度の高いイリヤ&エミリア・カバコフの「棚田」など、
大地の芸術祭の顔ともいうべき作品が目白押しです。
「農舞台」はこのような個性的な作品に押され気味です。MVRDVはどう考えているのでしょうか?
雑誌「新建築」のインタヴューによると「種々の条件を勘案して、日本の協働者とも話し合ってこのような結果になった」という趣旨のことを言っており、言外に自分の思い通りにならなかったということを言っています。というより、まるで自分の作品でないといってるかのごとき発言です。
日本で人気のMVRDVは東京の表参道でもGYREという商業施設を設計しています。
しかしこの建物も周囲をグルグル取り巻く誰も使っていない避難階段とバルコニー以外は、中央に吹き抜け空間のある、ごくフツーの商業施設です。
正直、同じ表参道の商業施設なら「東急プラザ」のほうが面白い演出になってると思います。
どうも日本からMVRDVへの愛情は一方的で、彼らは日本にあまり興味がないのでは?と感じます。
さて、それなら実際に農舞台を設計実務を担当した人たちに話を聞いてみたいと思います。
それによると、発注者側からは展示施設よりも、会合などを行うスペースを求められたとのこと。
同じく「新建築」掲載の図面によると、地上階は入り口以外はほとんど何もなく、イベントスペースになっています。
2階部分はかなり複雑で、実際慣れるまではかなり迷います。廊下に仕切られて左上からトイレ、多目的室、事務室、カフェ、ショップ、教室となっています。
入り口部分です。ちなみに写真下のカラフルな板もジョセップ・マリア・マルティンという人の「まつだい住民博物館」という作品で、周囲の住民1470世帯の屋号を示します。これが「まつだい駅」から連続してます。
廊下とショップ部分です。廊下を黒で統一するとともに、各部屋を色分けし、サイン代わりにしています。
赤いところはトイレです。外観は地味で中身で勝負というのは如何にも日本的解決策です。
教室部分です。部屋全体が河口龍夫さんの作品で、全て黒板になっています。さらに机の引き出し内全てに作品を仕込むというサービスぶりです。
淡い青はカバコフの作品が見れるカフェ。ジャン=リュック・ヴィルムートの作品で、住民が撮った写真が使われています。天井照明に仕込んだ写真を鏡になったテーブルを通して見るという趣向もアーティストと設計側の折衝の結果決まりました。
白い多目的室は僕が行った大地の芸術祭2015のときは「今日の限界芸術百選」展を開催。狭い空間を限界まで作品を詰め込んだ空間はなかなか楽しかったです。
結果としては観光客にも満足され、さらに冬など非観光シーズンにも住民に「使える」施設となり、利用価値の高い建物になったと思います。にしてもショップ、多目的室、教室という構成は地方都市の駅前公共センターや公民館とダブります。世界的建築家を招聘してできた施設が公民館とは皮肉ですが、単に美術館を作って観光地化するというのは地方の暮らしや伝統を伝えるという大地の芸術祭の理念に反します。伝統を極力守りつつ、変化も受け入れるといったプログラムを体現した施設だと思います。
ナンコレ度★