川崎の岡本太郎美術館で開催中の「岡本太郎とメディアアート 山口勝弘―受け継がれるもの」展《2017年11月3日(金・祝)~2018年1月28日(日)》を見てきました。
美術館は生田緑地内にあります。交通の便は悪いですが、上り坂なので結構いい運動になります。
毎回個性的な企画展をやっている岡本太郎美術館、また新人の発掘にも力を入れており、岡本太郎現代芸術賞には毎回見ごたえのある作品が揃います。前回は太郎と建築でしたが、今回はメディアアートです。思うに岡本太郎さんの懐の深さとスケールの大きさがどんな企画展をやっても馴染む結果を生んでいるのではないでしょうか?
今回の展覧会名になっている山口勝弘氏は先日90歳の誕生日を迎えました。流石に身体はだいぶ弱っているようでしたが、話はしっかりしていました。後ろの映像は山口氏のメディアアート専門の美術館構想、「イマジナリウム」です。
多様な活動をされた太郎さんですが、メディアアートをされていたとは聞いたことはありませんでした。しかし若いアーティストとの交流は多くあったようで、会場では太郎さんの「憂愁」とそれをモデルにしたという山口氏の「No.38」が隣り合って展示されています。
また、同じく太郎さんの「夜」と、山口氏が太郎さんが亡くなられたことをきっかけに製作した「黒い太陽ー岡本太郎に捧ぐ」が向かい合わせに展示されています。
「黒い太陽~」は吊り下げられた四角錐の鏡とFRPと思われる波打つ板、内側を向いた5台のテレビからなります。
テレビには女性の身体が映し出され、四角錐には「夜」の絵が映り込みます。この四角錐は「夜」の少女が後手に持つナイフのイメージです。
山口氏といえば擦りガラスを通してみる絵画など、見る機会が多い割にはよくわからない作家でしたが、このように背景が明らかになると俄然面白く感じますね。
今回の展示ではこの両者に加えて山口氏の弟子たちが結集し、3世代のメディアアートが見れるというかなり豪華な企画です。それでは見どころを紹介していきたいと思います。
太郎さんの名言「芸術は爆発だ」に着目し、「○○は爆発だ」(○○にも太郎さんの著書などから取った言葉が入る)という文章を自動生成、出力し続けるという作品です。
例えばこんな感じです。出力された紙は入場券と共に観覧者に配られます。太郎さんを語るとき、著書やメディア出演での「言葉」は欠かせない要素。それをそのまま楽しいアート作品にするという発想です。
いつもは川崎市民ミュージアムに常設展示されている作品です。井戸の中を覗き込むようにして見ると、エンドレスで川崎市内の風景が謎めいたサウンド付きで流れています。
この音楽が妙に作品の雰囲気とマッチしていて、つい見入ってしまう不思議な魅力を持っています。ちなみに上の写真の「TARO」の文字はスペシャルエディション・・・ではなくただの映り込みです(笑)
人が前に立つと、影になった所だけ電球が付きます。
「見る」「見られる」の関係を非常に直接的に崩した作品です。ここの美術館は親子連れが多いので、子どもも楽しめる作品ですね。
ヘッドセットをつけて見るVR作品です。内容は太陽の塔内部をもっとグニャグニャにしたような空間を流れていくというものです。VRには絵画や彫刻、写真などでは表現できなかった体験をもたらしてくれる力があり、太郎さんが生きていたら間違いなく活用しそうです。
今回、山口氏はじめ筑波大学総合造形領域の関係者が多数参加しており、改めて筑波すごいなって思いますが、岩井氏もその一人です。初台のICCでは「マシュマロモニター」で老若男女問わず、人々を大いに楽しませてくれてます。
今回の作品もローテクノロジーで誰も見たことのないものを実現するというmediaアートの醍醐味が味わえます。
色んなポーズをとった人型を載せたボードを回転させ、ライトをチカチカさせることで、人型が動いて見えます。怪しげな音楽のせいで、小さな宇宙人が騒いでいるようにも見えます。
なんと明和電機は本HP3回目の登場です。(六甲ミーツアートと空飛ぶ工場展)
今回の展示の展示の特徴として、企画展示室が改装中のため、普段は太郎さん専用空間だった常設展示室で特別展をやっているということがあります。そのため展示室の特殊性を利用した展示も複数あり、これもその一つです。ここは普段は太郎さんデザインの家具やコップが展示された岡本太郎ショールームみたいな空間ですが、今回明和電機が乗っ取りをかけています。明和電機の製品をフル装備させられた太郎さんに・・・
太郎さんデザインの製品を囲む明和電機の「オタマトーン」まさに物量作戦(マスプロ)です。
壁面のCMも明和電機に差し替えれれています。でもこのような悪ふざけも太郎さんならきっと喜ぶに違いありません。
めっちゃわさわさ動いています。かなり不気味です。
入り口には同じく高橋氏の「パイラ人ー岡本太郎に捧げるバボット」が土日限定で展示されています。
これは映画「宇宙人東京に現れる」で岡本太郎氏がデザインした宇宙人「パイラ星人」の立体化ですね。
一見単純なバルーンアートですが、目が開閉したりするので、実はかなり高度が技術が使われていると思われます。
会場内を流れる音楽だけの展示です。でもただの音楽ではありません。会場内に隠された6つのスピーカーから別々の音が鳴るので、空間や作品の印象を相当コントロールしているのです。不可思議なサウンドは思わず聞き入ってしまいます。
こちらも美術館の空間を生かした作品です。太郎さんの「樹人」に様々な映像が浮かび上がります。
模様は太郎さんに関係あるものも、無関係のものもあるようです。今回の展示だけにしてしまうにはもったいない出来栄えです。
透明のカーテンを複数枚重ね、そこにレーザー光線を当てて複雑な光をつくり出しています。
太郎さんの彫刻が光に照らされ刻一刻と変化していきます。
最後には太郎さんの関連の仕事も紹介されていました。当時実物を見てみたかったです。
また今回の展示では太郎さんの前回オリンピック当時のクリスマスの電飾が紹介されていました。当時を見てみたかったです。
今回の展示はいつも以上に空間が面白いと同時に、各種イベントも入場料だけで参加できます。是非イベント開催日を狙って行ってもらいたい展覧会です。ナンコレ度★★
大杉浩司2017年11月14日 4:50 AM /
この度は展覧会を取り上げていただきありがとうございます。現代美術、メディアアートというと比較的観念的で取っ付きにくいイメージもあるのですが、アートとテクノロジーへが融合することによってアートがエンターテーメンと性を帯びこれまでにない表現の領域が広がること。特に今回は岡本太郎美術館で開催することについて作家の皆さんに太郎とコラボレーションしてください。と、お願いしました。参加作家の皆さんはみごとにそれに応え他館ではできない展示になったと思います。また、戦後日本の現代芸術から今日に至るメディアアートの歴史的断続性を俯瞰して見ることもできるのではないかと思います。子どもから大人まで日常生活を抜け出してアートによる異空間を堪能していただければと思います。