平塚市美術館で開催中の「神山明・濱田樹里展」《 2017年9月30日(土) ~11月26日(日)》
を見てきました。
美術館は平塚駅から徒歩20分。写真では分かりませんが、周りは工場地帯で、重機が轟音を上げています。いっそ工場機械みたいな美術館にしたら面白かったのに(笑)
神山明さんは幻想的な建物のような立体作品が特徴の作家です。見た人の記憶に残る作風のわりには場所を取るせいかあまりまとまって展示される機会はあまりありませんでした。今回13点がまとめて見れるとのことで、遠出して馳せ参じた次第です。
13点というと少ない気もしますが、1点1点が非常に見ごたえのある作品なので満足度は高いです。製作年も1886年から2003年まで開きがあります。
神山さんは旅先で読むものがないと電話帳を読んでいたほどの活字中毒者で特に幼少期に読んだSF小説の影響が作風にも現れています。特にジュール・ヴェルヌや星新一に関しては、表紙絵もなんとなく神山さんの作品に似てます。
しかし、事実は小説より奇なりと言います。今回は神山さんの作品の特徴を分析しながら、似た建築物がないか、考えてみたいと思います。
神山さんの作品が現実感を欠く原因は色々ありますが、その一つは形が整い過ぎていることが上げられます。この整然とした形はアーサー・C・クラークなどのSF小説の世界観を思わせます。
この形がビシっと決まった幾何学的建築を好む傾向はポストモダン世代に強くありました。磯崎新の水戸芸術館や黒川紀章の愛媛県立総合科学博物館はその代表です。
フラッシュ撮影が禁止だったので写真はありませんが、神山さんの作品は建物内の作り込みも特徴です。内部は建物の外部がミニチュア化したような入り子構造のようになってたり、内部から作品の底部に出れたりするものもありました。
家の劇場化といえば石山修武の「幻庵」を思い出します。神山さんの作品も住みにくそうですが、使いやすさ以上に家主に愛着があればこのような危険な家にも住めるかもしれません(笑)
SFといえばスター・シップというわけで、神山さんの作品にも大小様々な船が登場します。実は現実世界でも船が好きな建築家は数多く、第3スカイビル(通称軍艦マンション)の渡邊洋治さんをはじめ
アムステルダムに建つレンゾ・ピアノの「科学技術センターNEMO」など挙げていけばきりがありません。
神山さんの作品はどれも建物の大きさに対して窓が極めて小さいです。これが内部を醜くしている原因でもありますが、神山さんが幼少期引きこもりだったことも影響しているのかもしれません。
窓が小さいといえば白井晟一です。個人宅ならともかく、商業ビルとしてはこの閉鎖性はどうなのかと思いますが、一定の注文がある以上、需要はあるみたいです。
作品の底部分をいろいろ作り込んでしまうのもその延長線にある気がします。もっとも建物を設計する上で地下の構造を考えるのは常識で、この作品は動力のようなものが地下にあるのはジブリの映画「千と千尋の神隠し」みたいで面白いですね。
地下に埋めるのが大好きな建築家といえば安藤忠雄。そういえば神山さんの作品に度々登場する球体もウォルター・デ・マリアみたいですね。
神山さんの作品の幾何学性を強調しているのが反復性です。同じ形が2回、3回、4回などと規則正しく繰り返されることで、より空間が整然としてきます。
都市計画のスケールでものを考える建築家は環境を整える手法のひとつとして反復性を使います。ミノル・ヤマサキのワールドトレードセンターがツインタワーなのも、タワー同士の対話を期待したからです。
丹下健三は新宿副都心に東京都庁、都庁第2庁舎、新宿パークタワーと複数の建物を設計する機会に恵まれました。当然、一定の法則性を持って設計されています。
さて、現実の建物と比較しながら神山さんの作品を見てみると、全体として非常に整然として、整った作品なのは気になります。59歳で亡くなったとのことなので、もっと長生きしてたら更なる発展があったかもと思うと惜しいです。
展覧会としてはいい作品が集まってはいますが、内部を見る懐中電灯も、背の高い作品を見る踏み台もなく、先ほどの林立型の作品も内部には入れませんでした。見せるためにもう一工夫欲しかったです。ナンコレ度★