今回は渋谷のヒューマニックスパビリオン渋谷に注目してみたいと思います。
設計は若林広幸氏。デザイン畑から独学で建築を学んだとのこと。京都出身で関西に実作が多いです。
またデザイン出身だけに、南海電車のラピートなどそちらの仕事も有名です。
通りの突き当りから見ても視認性が高い建物です。
竣工時の看板などが掲げられる前の写真です。若林氏は宇宙船や豪華客船をイメージしたとのことですが、僕にはむしろアメコミに出てくる悪の組織のアジトに見えます。
垂直性を強調した、あらゆる意味で尖ったデザインにも拘わらず、雑踏の中では意外と目立ちません。これは若林氏が
➀色調を両側の建物と同じ濃いグレー調にしたこと
②両側の建物を壁に見立て、そこから掘り出したレリーフのような印象を狙った
ためです。実際には両サイドより暗い色調と奥に引っ込んでいるためにほとんどの人はこの異様な外観に気づきません。この辺りの拘りが京都出身ならではなのでしょうか?
もっとも現在も生き残っている渋谷のバブル建築はどれも雑踏に溶け込んでるので、これが渋谷に生きる建築の条件なのかもしれません。
そういう意味ではこの建物ほど良くも悪くも渋谷に適応している建物もありません。特に正面右のディズニーストアのファザードは看板建築の上書きであり、ディズニーの固有結界の凄まじさが身に染みて分かる実例です。
内観も見ていきます。またかなり狭小建築であることも分かります。1階はホールまでで面積の半分以上を使ってしまっています。この外観でなければ単なるペンシルビルになっていたかもしれません。
映画館がある階です。客席をめいっぱいまで取った結果、トイレなどもこの階にはありません。
外観だけでなく内観も垂直性が意識されており、ドームが3つも仕込まれています。若林氏は当初店舗を立体的に積み上げ、建物の内外を使った迷宮的空間にする予定だったとのこと。実現していれば建物全体がシンデレラ城のアトラクションになっていたということですね(笑)
外観や階段の曲線などはその迷宮の名残かもしれません。階段の照明は階ごとに色を変えてあります。
特徴であるドーム空間です。このようなメカっぽいデザインは氏の持ち味です。
立体構成の名残でドームの頂部がフロアに食い込んでいます。この空間は現在映画館がインスタレーションを展開しているようです。
フロアごとに全く違う空間というコンセプトは保たれています。
当初の予定から大幅に変更を余儀なくされたとはいえ、今日までこの建物が生き残ってこれたのはデザインの優秀さというより、すべてを許容する渋谷の街ゆえという気がします。
建築図鑑145★★宇治の二面性「宇治駅」 – 博司のナンコレ美術体験2023年1月3日 8:57 PM /
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