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★★キュー!シュー!ハッ!「モダンアート再訪ーダリ、ウォーホルから草間彌生まで 福岡市美術館コレクション展」

埼玉県立近代美術館の「モダンアート再訪ーダリ、ウォーホルから草間彌生まで 福岡市美術館コレクション展」【2018.4.7[土] – 5.20[日]】を見てきました。

福岡市美術館はリニューアルのため2019年まで閉館しており、その期間を利用してコレクション展をやろうという企画です。

同美術館は地方の公立美術館としては国内屈指のコレクションを誇ります。

その一方で同美術館の常設展はあまり変わり映えがせず、今回は違う側面が見れるかと期待していました。

サルバドール・ダリ「ポルト・リガトの聖母」

はじめの展示室で早々に同美術館最大の目玉であるダリの作品が見られます。原子力への関心から描かれたすべての事物が宙に浮いています。海外の貸し出しも多いダリの画業においても重要な作品ですが、モチーフは伝統的な西洋文化に立脚したもので、やや退屈です。

藤野一友「抽象的な籠」

これなら藤野さんの作品の方がずっと独創的です。体内の人々は抱き合ったり物思いに耽ったりかなりやりたい放題です。

三岸好太郎「海と射光」

同じくシュルレアリスム系の作品です。よく見ると砂浜がやたらピンクがかってるし、水平線が傾いているし、貝殻や女性が微妙に砂浜から浮き上がっているし色々怪しげです。

 

イヴ・クライン「人体測定(ANT 157)」

女性の裸体に塗料を塗って紙の上で転がして描いたという作品です。しかしよく見ると人体を思わせる描写は画面にありません。具体的なイメージを慎重に避けつつ、生命の躍動そのものを作品化したということでしょうか?

 

 

さて、このような知名度の高い作品群よりも、今回の目玉は九州派の作品です。九州派は1957年から10年ほど福岡市を中心に活動していた芸術家集団です。メンバーの特徴は全員がデパート、新聞社などに勤めていた労働者であることです。ほとんどが美術教育を受けていない素人集団で、生活に密着した時代を先取りした作品を多く制作した一方、収蔵スペースがなかったため多くの作品は現存しません

上の写真は当時美術館も画廊もなかった福岡での展覧会で、当時の県庁の前の路上に展示されています。

尾花成春「黄色い風景」

九州派の「主力兵器」はアスファルトです。色は当時福岡に多くあった炭鉱を思わせますが、メンバーはその美しさに惹かれて用いたらしく、炭鉱を思わせる作品はほとんどないそうです。

アスファルトの他にも思い思いの廃材をキャンバスにぶちまけるのが特徴で、本作も板、カシューなどがくっついています。

桜井孝身「リンチ」

九州派はリーダーを選出しませんでしたが、実質的な理論的支柱になったのが(菊畑茂久馬氏曰く)「御大将」桜井孝身氏です。本作は桜井氏の代表作で、アスファルトの他ペンキ、釘、チューブ、針金、金網の廃材が固定されています。

「リンチ」というタイトルから否応なく人の顔を連想させます。尖った廃材が大量に固定されているため、九州派の作品の中でも特に痛々しい印象です。材料が錆びているので地面に倒れている人が踏みつけられているところを連想します。

菊畑茂久馬「葬送曲 No2」

九州派の出世頭、菊畑茂久馬さんの作品です。

菊畑さんはキャンバスに貼り付けられるものが特に多彩で、またサービス精神旺盛にも見えます。これが菊畑さんの作品が人口に介した要因になっていると思います。

本作でも知り合いに作ってもらった陶器に顔をつけて貼り付けています。

本作はアンデパンダン展に出品された後行方不明になっていましたが、なんと地元の小学校に飾られていたそうです。作品の持つ不思議な魅力によって破棄を免れてきたのだと思います。

(左)山口 洋三氏(福岡市美術館学芸係長) (右)菊畑茂久馬氏

菊畑氏は埼玉県立近代美術館での講演に来ていました。83歳とのことですが、まだまだ元気そうです。しかし九州派のメンバーは大半が既に鬼籍に入っており、何度も涙ぐむシーンがありました。

 

白髪一雄「葬送曲 No2」

さて展示はそのままアンフォルメル、そして「具体」の作品に移ります。「具体」はリーダー、吉原治良氏のせいか、作品がずっと洗練されています。もっとも九州派は明確な理論がなかったからこそ、輝いていたという面も強いと思いますが。

 

風倉匠「ピアノ狂詩曲」

これ以外の展示は九州とあまり関係のないものが多く、これが福岡市美術館の弱点にもなっていると思います。例外は大分出身の風倉氏の作品。同美術館で行われたパフォーマンスとその関連作品が出品されていました。

パフォーマンスはピアノを鞭打ちつつ分解していくというもので、そのパーツはキャンバスに貼り付けられ作品化されました。あの手この手でピアノを責める風倉氏の奇行(?)が見どころです。

 

他にも原口典之氏の物質の変化をテーマにした作品など、なかなかお目にかかれない作品もありました。

 

点数はそれほどではないとはいえ、九州派の作品がまとめて見れるのは貴重な機会です。それ以外にも変わった作品が多く、見ごたえはあります。★★

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