東京国立近代美術館(千代田区竹橋)の「ゴードン・マッタ=クラーク展」【2018.6.19 – 9.17】を見てきました。
マッタは家を切った作品が有名なことは知ってましたが、正直わざわざ日本の国立美術館で個展をやるほどの作家だとは思っていませんでした。結構前の作家だし・・・
それに切った建物を美術館に持ってくるわけにはいかない(そもそも現存しないそうです)ので、ビジュアル的にクリスト展みたいになるのかなと思ってました。
会場は建築の仮設材を多用した特殊なビジュアルでした。
最近は変わった会場構成の展覧会が増えましたが、国立近代美術館のそれもL字型の展示室を生かした個性的なビジュアルが多く、結構好きです。
始めに目に飛び込んでくるのは3mほどありそうな巨大模型です。
マッタが最後に行った建物切断であり、シカゴ現代美術館の新館に改装予定の元集合住宅を切断したものです。
水平と垂直に3つの円を描いて切断されているのが分かります。
「カリビアンオレンジ」とはカリブではオレンジを横に切るからで、「サーカス」とはこの展覧会場自体をサーカス会場に見立てているからだとか。
本プロジェクトは数少ない一般客も空間を体験できた作品で、警備員とともに実際歩き回るツアーが開催されたそうです。
本展覧会でも巨大模型を覗き込んでその複雑な空間を追体験できます。
この作品は建築のグループ展に出品されたものです。理想を語る建築家に対してマッタは貧困層の住環境の現実を突きつけています。展示は会場の窓を前夜にモデルガンで割って完成させました。しかし会場の窓は早急に復旧されたため、その部分は実現しなかったようです。
このようにマッタが既存の建築に介入するのは、それらの建物が人のためになっていないという考えがあったためです。
本作は樹木にはしごやハンモックを渡して一日滞在するというもの。
樹上生活を提言しているように思えますが、実際にはロープに絡まって遊んでいるように見えます。
むしろ理想の家とは樹木と一体化することだと考えていたのかもしれません。
ドイツでのプロジェクトです。複数の煙突を用いた大型作品になる予定でしたが、結局煙突一本のみを用いた作品として実現しました。
作品タイトルは旧約聖書より。
仮設材を用いた既存建築への介入は川俣正を思い浮かべます。もっともマッタの方が遊戯性が強いように感じます。
ここからは大部屋の展示です。まずはマッタの代名詞である家のカッティングから。
映像を見ると家本体だけでなく、基礎の一部もカットすることで切断面から家を2つに開いていることが分かります。
家の隙間から差し込む光が非常に美しいです。マッタは家を彫刻とみなし、廃屋になり用済みになった家を切断することで、新たな価値を付加しています。
この作品も廃屋の新たな価値に注目したものです。朽ち果てた壁を撮影し新聞紙に印刷して壁面いっぱいに展示しています。
今回の展示ではこの紙を持ち帰れるところまで再現してます。
ストリートに注目した作品群です。
写真やガラスで作ったオブジェの他、美術館の入り口に置かれたごみを固めたオブジェもこの活動の一部です。
ゴミは炊飯器や時計もありますが、ブラウン管テレビ、古いゲーム機やパソコンなどデッドメディアが目立ちます。現代のごみの在り方の変化を思わせます。
マッタのストリートは活動が散漫な分、キース・ヘリングよりさらに遊戯性を強く感じます。
無断で行われた建物切断。
単純な仕掛けですが、テート・モダンのオラファー・エリアソンを思わせる荘厳な作品です。
会場の後半に置かれたもう一つの巨大模型です。
こちらのほうが動画によって切断の詳しい考えややり方が分かります。
会場構成も街で遊んだマッタに合わせて、仮設材など街にあふれた有り合わせのもので作ったというテイストになっています。
建築材のスタイロフォームを置いただけの椅子など遊び心に溢れています。
短い人生で目まぐるしくスタイルを変えてきたマッタの作品群は大変見ごたえがあります。ビジュアル的には派手さに欠けますが、今夏最高の展覧会の一角かも★★★