市原湖畔美術館の夢みる力―—未来への飛翔 ロシア現代アートの世界【2019年8月4日(日)~2019年10月27日(日)】を見てきました。
ロシアの現代アートはあまり日本ではなじみがありません。その上ASAKUSAでの展覧会などで見る限り、かなり難しげな印象もあります。そもそもロシア・アヴァンギャルドは西洋のシュルレアリスムやポップアートに比べて複雑でとっつきにくい部分が多いです。しかしその分俗化していない神秘性が強いのが魅力でもあります。
展覧会のイントロダクションにある作品はロシア宇宙主義の学者、詩人、思想家など7人を顕彰する本棚です。
そのうちの一人はロシア・アヴァンギャルドの担い手で、極端に簡略化された抽象画でも有名なカジミール・マレーヴィチ。絵画作品もぶっ飛んでますが、その言葉も極端です。
ロシア宇宙主義とは発想の飛躍や自由の渇望という意味なのでしょうか?
そういった意味で象徴的なのが入り口に展示されているこの作品。
ロケットを手編みで作るというのも面白いですが、足元に置かれた毛糸ともども、目にも楽しい作品です。
未来都市をパスタで、住民をパンで作ったラドミールは9月の千葉豪雨災害で崩壊。見に行ったときはボランティアさんが再建中でした。
もっともオリジナル作品も実際に作ったのはボランティアさんで、作者は「素敵に作ってください」みたいなザックリした指示しかなかったみたいです。
パスタで作るっていうコンセプトが大事ということでしょうか?
「木を切りて本口見るや今日の月」という芭蕉の句に着想を得た作品。
どうもチシコフさんは身近なものと遠い宇宙や未来とを結びつけることに関心があるようです。
絵本とオブジェがセットになった展示です。ライトボックスで表現された月は窓から月が入ってきたイメージです。
絵本は風邪をひいて空から落ちてきたお月様を空に返すという話です。
この話も遠い月や宇宙を身近に感じるチシコフさんらしい作品です。
バタニナさんの作品は静謐な、先ほどとはまた違った不思議なものです。
作品タイトルは「正面玄関」「門」などと家の構成要素から取られていますが、生活臭は感じません。
ロシア正教の信者だというバタニナさんの精神を反映した神秘的な作品です。
いっぽう上記の2作品は空をテーマにした作品です。これは娘を交通事故で亡くしたことが影響し、娘との再会を願う意味も込められているとのこと。
今回の展覧会で最大の作品です。
吹き抜けの巨大な空間の床に水を張り、水面に反射する映像を見るという作品です。
作者のポノマリョフは南極トリエンナーレの主催者でもあります。
4つの映像も北極、南極、バフィン湾、グリーンランドといずれも極地の海の映像です。これらの映像は抽象化されており、それと言われなければ何か分かりません。
トリエンナーレで世界的に有名になった人らしく、この作品も極地の静謐さと非情さを感じます。
市原は宇宙ともロシアとも関係なさそうですが、ここでしか見れない作品も多く、そもそもロシアの現代アートが紹介される機会も少ないので見に行く価値はあると思います。★