笹目浩之さんの「ポスターを貼って生きてきた。 就職せず何も考えない作戦で人に馬鹿にされても平気で生きていく論 」を読みました。
渋谷のポスターハリスギャラリーの代表であり、演劇ポスター貼り専門の会社、ポスターハリスカンパニーの代表でもある笹目浩之さんの著書です。
2017年末には大規模な演劇ポスター展も開催しました。
本書は笹目さんの会社を中心とした半生と演劇ポスターの魅力について書かれた本です。
笹目さんは20代で寺山修司の劇団、天井桟敷の最後の作品、「レミング 壁抜け男」を見て以来、演劇のスタッフとして関わるようになり、やがてポスター貼りにのめり込んでいきます。そして20代後半にはポスターハリスカンパニーを立ち上げ、現在に至ります。
分かりにくいのが、なぜそこまでポスター貼りを愛するのか?ということ。どうも笹目さんはポスター貼りのため新宿ゴールデン街などに出入りし、そこで年長者の人たちに可愛がってもらえたのが嬉しかったようですね。本書でも組織作りが好きだと書いてあり、人脈を広げるのが本当に好きな人の用です。
会社は貼らせてもらうお店にお金を一切払ってないこともあり小規模なものでしたが、それでもバブル好景気に乗って初年商は2000万円、前述の人脈もあってやがて演劇プロデューサーになったり、ポスターの収集や展示、ポスター関係の出版も行うようになります。
本書の最後のほうは60年代から現在に至るまでの名作ポスターを紹介しています。80年代までは小さな劇団でも予算を度外視してB1の巨大なポスターを作ることが常識でした。これは脚本がまだ固まっていなくても監督がデザイナーに構想を語り、それを形にすることで劇団が一つにまとまるという効果があったようです。また社会に異を唱えるアングラ劇においては前衛的なポスターは旗印の役割も果たしたようです。
粟津潔さんデザインの天井桟敷「犬神」のポスターは粟津さんの興味もあって、土着性や呪術性の強い怪しげなものに仕上がっています。作品の閉鎖的な空気が表現されています。
天井桟敷「観客席」は客席に潜んだ役者が劇をやるというもの。戸田ツトムさんデザインのポスターも文字がすべて反転しています。
90年代以降はタレントの写真を並べるタイプの経済合理主義的なポスターが増え、さらにポスターを作らずHPやフライヤーで済ませる劇団も登場しました。その一方で横尾忠則さんなど上の世代の仕事に憧れてこの世界に入ってきた新世代も出現しました。
東 學さんは維新派のポスターを一手に引き受けます。維新派も大掛かりなセットを用いた寺山さんや唐十郎さんの流れをくむ劇団で、ポスターも横尾さんなどの影響を受けつつも独自色の強いものになっています。
もうそろそろこの時代の熱気から半世紀がたつ頃ですが、演劇ポスターは時代の空気を伝えるメディアとして再評価されています。とはいえ当時を知る人から話を聞いてポスターの背景を知ればもっと楽しめます。ナンコレ度★