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★★★大・タイガー立石展 POP-ARTの魔術師

千葉市美術館大・タイガー立石展 POP-ARTの魔術師【2021年4月10日[土] – 7月4日[日]】を見てきました。

 

僕の中ではタイガー立石と言えば、森美術館の六本木クロッシング2007で唯一紹介されていた物故作家として覚えています。

そういえばあの展覧会では榎忠も大型作品を出品していましたが、ついこの前再会しました。

立石さんは1998年に57歳で亡くなっているので、同世代や先輩作家の中には現役の人も多くいます。

彼が紹介されることがあまりないのは早逝したこともあるでしょうが、その楽天的な作風にあるのではないでしょうか?

作品は情報化に対応したものもあれば、歴史に代を取っているものもあります。政治的なものもありますが、悲観論に走らず、いい意味で深みがないように感じます。これが左がかったり悲観論に走りがちなアート界にウケが良くなく、アート街道の真ん中を走れない原因なのではないでしょうか?若いころ中村宏と「観光芸術研究所」を結成したことはありましたが、それ以後芸術集団に参加することがないのもその所作に感じます。

また、彼の直接的な表現やSFや映画を元ネタとした分かりやすい表現は一般大衆に対する訴求力は極めて強いのですが、コンセプチュアルアートが高く評価される欧米にもあまり受け入れられていないように感じます。また最晩年まで日本を前面に出した作風も独特です。

 

立石さんは福岡県田川市の出身です。

田川はかつては炭鉱の町として栄えました。

福岡には他にも大牟田、直方など石炭の衰退とともにさびれた街が沢山あり、今は広大なシャッター街が広がり、治安もかなり悪いです。

立石さんが暮らしたころは田川はまだ元気があり、街の映画館によく通っていたようです。

SFや映画、政治、哲学などあらゆることに関心を持つ立石さんが故郷田川に言及することはあまりなかったようですが、1992年に書かれた香春岳対サント・ビクトワ-ル山のように、そのモチーフには最後まで取り入れられていました。

 

立石さんは上京後、1963年の読売アンデパンダン展に共同社会を出品し話題をさらいました。これは最後のアンデパンダン展となり、彼が同展で活躍した赤瀬川原平らより一世代下であることを示しています。幅5mを超える巨大な作品で、白いキャンバス部分には玩具など日用品をきれいに並べて貼り付け、麻袋のような茶色い部分にはアクアリウムに使われそうな木っ端を貼り付けています。

何にも似ていない独自性の強い作品で、タイトルには彼が大学時代に読みふけった哲学書、詩、文学、歴史書などが反映されています。

彼の初期作品には模索期なのか後期にないような難解な部分があります。

1963年には翌年の読売アンデパンダン展にネオン作品を出品するためネオン会社に就職します。

結局同展は開催されず作品も完成しませんでしたが、その原案はキャンバス作品として残りました。

立石紘一のようなという不思議なタイトルは彼が後に複数のペンネームを使い分ける予兆のようにも感じます。

早くも生涯のモチーフになった富士山が登場しています。

群像劇のような作風が早くも完成しています。

画面中央の西郷隆盛像が最前列にも反復されており、時間の要素を早くも取り込んでいます。

東京タワー、ビクター犬といったポップで最先端、人気のモチーフを描くのはアディ・ウォーホルをはじめとするアメリカのポップアートに近いものを感じます。

時間のモチーフがもっとも表面化した作品です。

動くものだけでなく、本来不動な富士山や五重塔が平行移動しているのが面白いです。

特に残像のような五重塔はお気に入りです。

飛行機の残像は他の作品にも見られます。

政治的、歴史的なテーマもかなり早くから現れますが、ここでもノーテンキというか、あっけらかんとした作風が特徴です。

同時に映画をモチーフにしたものも多く描いています。

「用心棒」「荒野の用心棒」と歴史ものがミックスされており、近衛兵と十字軍が激突寸前です。

近衛兵は毛沢東の肖像画を持っていますが、このような直接的な表現も特徴的です。

 

虎もこの頃から登場します。

国内で漫画家として成功し出すと、新たな道を模索したくなったのかイタリアに移住します。

イタリアではデザインの仕事をするとともに作風も一変し、漫画のようなコマ割りの絵画を描くようになります。

内容もよりSF色の強いものになります。

セリフがなく、タイトルと絵だけでストーリーを伝えるスタイルです。

ナンセンスというよりハイセンスな感じです。

 

帰国後は情報化に対応した絵画作品を描いています。しかし晩年まで絵画を中心とした作風は変わらず、好奇心旺盛な立石さんにしては意外に感じます。

絵画の持つ限界性に逆にひかれていたのかもしれません。

 

過去最大規模のタイガー立石展ということですが、まだまだ未見の作品も多いし、これを機会に再評価が高まるといいと思います。★★★

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