田根剛氏はまだ30代の建築家です。2006年にエストニア国立博物館の設計コンペに最優秀賞を26歳にて受賞。2017年に完成しました。
国内の若手で最も注目される建築家とはいえ、実作はこの博物館以外はほとんどが小さな住宅ばかりです。しかしそれだけにこれからの可能性を感じる建築家です。
若いだけに安藤忠雄や隈研吾のような大御所とはひと味もふた味も違う展覧会になっています。注目点をまとめてみました。
何といっても最大の注目はこちらです。
実作が少ないせいか、博物館は巨大なスクリーンに移された映像と・・・
斜めにしないと展示室に入らないような巨大模型を中心に、大きく紹介されていました。
長大な建物と、地面に引かれた直線的な道路は、ナスカの地上絵のよう。
実はここは旧ソ連軍の飛行場。エストニアの中でも人が訪れることもない負の遺産でしたが、エストニアはこれを未来へ向かっての飛翔という前向きなモニュメントとして活用したようです。
滑走路に沿って建物が徐々に立ち上がっていきます。
どこまでも延長していけるデザインというのも面白いです。
そのため裏口の方の部屋は地面に埋まっています。逆に表口の方は2階建てになっています。
特徴的な表口も模型で再現されています。
その他動画では中の展示室や職員区域の様子や・・・
逆に建設中の映像も流れていました。
現在隈研吾氏が建設を進める国立競技場の設計案です。
数々の応募案がありましたが、その議論の内容は
①明治の森への負荷
②競技が行われていないときの活用法
の2点に絞られると思います。
隈氏の設計は①の方は十分満たしていると思いますが、②の方はその他大勢の提案と大差ないと思います。
その点田根氏の提案はスタジアムがそのまま丘の公園になるという案で、むしろ公園が競技場以前より魅力的になるというメリットがあります。
これはいちょう並木からみた光景。左のこんもりとした山が競技場です。
こちらはザハ・ハディド案に待ったをかけた槇文彦氏の東京体育館方面から見た様子。
後ろに小山ができているようにしか見えません。
会場には中に入って見れる体験型の模型も。
階段や入り口も森に埋もれていて、公園というより古墳といった雰囲気。隈氏の案より日本を深く感じます。
これができていれば世界中から観光客が押し寄せていたことは間違いありません。
住宅作品からも一つ。
このキャラ立ちまくりの家は日本の伝統的な住居を時代順に下から並べてできました。
3つの土間のような箱の上に木造の箱が乗っかっています。
縄文時代の竪穴式住居を意識して、土間は地表より低く掘り込んで作られています。
土間に台所など生活空間を置き、その間が庭、木造部分は寝室になっています。
周辺環境。周りはごく普通の住宅街なので、一層目立ちます。
このような設計のアイデアがどこから浮かんでくるのかが不思議なところ。
会場ではその一部をインスタレーション方式で公開。
雑誌の切り抜きのような写真が形が似たものを集めて展示されています。
特に興味を持ったところが繰り返しや集積の展示です。
その他テキスタイルや・・・
顕微鏡の世界からも着想を得ていることが分かります。
また出口前にはこれまでの実作、コンペ公募作が区別なく展示されています。
実現したものの中にはダンスの空間設計がたくさんありました。
ファッション業界の空間演出も面白いです。
もっとも面白いなと思ったのがこちらの作品。エストニアと同様、アースワーク規模の提案がなされています。
ポストモダン的なデザインの氾濫と、土地の歴史を読み解く地域主義建築のアイデアを自由に行き来する新しい世代の建築家の大型展が見れる貴重な機会です。★★
★★多士済々の現代アート「古典×現代2020時空を超える日本のアート」 – 博司のナンコレ美術体験2020年7月25日 8:41 PM /
[…] 参加者のうち唯一の建築家である田根剛さんは建築家らしく、美術作品ではなく空間演出です。 […]