練馬区立美術館の「戦後美術の現在形 池田龍雄展 楕円幻想」【4月26日(木曜)~6月17日(日曜)】を見てきました。
90歳を目前に迎える池田龍雄さんは現代美術界の最長老。流石に体は相当弱っているようですが、未だにギャラリーで新作展が開かれるなど、制作意欲は旺盛のようです。今回は池田さんの最初期から最新作まで、広範な画業を振り返る展覧会です。
本展のはじめに見れるのがこちらのオブジェ。瀬戸内海で拾ってきたタイプライターの筐体と流木を組みあせた作品です。タイプライターはゼロ戦の色に塗り、流木は特攻隊として戦死した池田さん親友の魂に見立てています。
池田さん自身も特攻隊に加わっていた軍国少年でした。
戦後昭和天皇が「人間宣言」をし、親しげに帽子を脱いで挨拶しています。池田さんは戦前からの変貌ぶりに激しい違和感を感じたといいます。
池田さんの画業は国家の裏切りを出発点にしているので、社会的なテーマのものが多いです。しかし登場する人物はどこかユーモアを感じさせます。
本作は網元が政府に補償金をもらうことで、将来的に自分の首を絞めることになるのを皮肉っています。
都市化、工業化も大きな作品テーマです。
しかし池田さん自身は機械や科学に深い興味があるようで、単に批判するだけでなく、都市や機械の美しさも同時に読み取れます。
またこの頃の作品は時代の流れに乗ってキュビズムやシュルレアリスムの影響を強く感じます。
この作品などは画風もタイトルも親交のあった岡本太郎さんの影響を強く感じます。
しかし60年安保の敗北により池田さん自身の政治闘争も大幅に後退します。模索期には松澤宥氏や中西夏之氏と組んで超前衛をやったり、日用品を使ったオブジェを作ったりしました。
写真は完成するのに悠久の時を要する「梵天の塔」のパフォーマンスです。この頃の作品は結構好きなのですが、その後再び絵画制作に入ります。
その後の作品は楕円をモチーフにしたものや・・・
宇宙や生命そのものをテーマにした作品など非常に洗練されていきますが、このようなどこでも通用するような作品は個人的にはあまり面白みを感じません。
箱のシリーズもそれなりに魅力的ですが、新しさより懐かしさを感じます。
最新作の一つです。90歳を目前にしてこれだけの作品を作れるのはすごいですが、やはり初期作品ほどの魅力は感じません。
一方、現在に至るまで続けているのが反戦絵画とでもいうべきシリーズ。しかしその訴えるメッセージが所謂左翼文化人の主張と極めて親和性が高いのは違和感を感じます。
半世紀をはるかに超える画業を振り返る貴重な機会ですが、最初期を超える作品が見れなかったのは残念でした★