小津安二郎監督の映画「東京物語」を観ました。
物語は尾道の老夫婦が東京で暮らす子供の家族を訪ねるというだけのものなので、解説はいらないと思います。しかしこの映画、タイトルほど東京でもないです。上記のパッケージも尾道だし。
物語の舞台は老夫婦の移動とともに尾道→東京→熱海→東京→大阪→尾道と移動していきます。各地のランドマークも登場するのですが、東京のランドマークが足立区のおばけ煙突(千住火力発電所)になっているのは驚きです。これは東京タワーができる1958年より前に撮影された映画だからです。
工場の煙突は長女一家の屋上のシーンでも登場し、東京を象徴するものになっています。
他に観光シーンでは皇居前・・・
ゴジラに破壊されたことでも有名な和光ビル・・・
同じくゴジラに破壊された国会議事堂が登場します。
一方大阪のシーンでは大阪城が2カット登場します。
こうして見ると電信柱以外は太閤殿下の頃と何も変わらないようにも見えます。
これらの都市風景からすると尾道の風景は如何にも美しく見えます。
しかし長野で田舎のシーンを撮ることの多かった小津にとって、尾道は特に思い入れのある地ではなかったようです。
にもかかわらず小津の作品の中でもひときわ有名になったのは、尾道が今日でも人を引き付ける懐かしい雰囲気を保っていることと、「家族の別れ」という普遍的なテーマを扱っているせいでしょう。
老夫婦の状況などという話では今日のドラマでは1時間枠すら埋まらないでしょう。
それが2時間超の映画になっており、全く飽きさせないのは小津の腕というより、失われてしまったものへの懐かしさを世界のだれもが覚えるためではないでしょうか?