映画「華いのち 中川幸夫」を見てきました。
中川幸夫(1918-2012)氏は前衛いけばな作家です。
前衛いけばなといえば草月会館でたびたび展覧会をやる勅使河原蒼風の草月流や、元々中川氏が所属していた池坊が有名ですが、彼はそれらから独立し、さらに前衛的な表現を追求した人です。
代表作「花坊主」は数千本のカーネーションから色素を絞り出し、それを自作のガラス容器に詰めてひっくり返す、という作品です。下に敷かれた和紙に血のような赤い色素がしみ込んでいます。
お尻にも男根にも見えるガラス容器に「花坊主」という人を食ったネーミングは、視覚的に極めてインパクトが強いです。
中川氏は同じようないわゆる「凝縮系」を多数製作しており、トレードマークにもなってる感があります。
映画内ではこれらの作品は鋭い現代音楽とともに紹介されるので、鮮烈な印象を受けます。
映画の作りは古風なNHKドキュメンタリー風ともいうべきもので、キャプションも親切についています。そのため新規さは薄いですが、中川氏の一生を時系列に沿って手堅くまとめられています。
中川氏は池坊から独立後、前衛的な生け花を多数発表するとともに、他分野の芸術家と協働することも積極的に行ってきました。
その人脈には、美術評論家の瀧口修造氏や・・・
自らの作品を撮るために弟子入りした土門拳氏・・・
さらに下の世代では中川氏の作品にインスピレーションを受けたアラーキーこと荒木経惟氏などがいます。
中でも舞踏家の大野和雄氏とは複数のコラボレーションがあり、最晩年にはヘリで花をばら撒いて、その下で車いすのまま渾身の舞踏を披露するという「天空散華」を行いました。本作は中川氏の晩年の代表作になりました。
さて、色素の作品が有名ですが、他の作品も鮮烈なものが多いです。個人的には白菜をそのまま生けた「ブルース」が衝撃でした。生けたといっても白菜を土台に乗せただけですが・・・マルセル・ディシャンのレディメイドに通じる考えでしょうか?
他に高知県特産の柑橘類、ブッシュカンを生けた作品も印象的です。中川氏の作品はどれもタイトルが絶妙で、氏が生け花以外にも様々なことに関心を持っていたことを伺わせます。
また氏の作品が美的価値を追求するものであると同時に、既存の価値観への反発やユーモア精神が多分に含まれていることも感じさせます。
よくまとまった映画でしたが、中川氏の作品については本などでもっと調べて見たくなりました。また★★