ライアン・ガンダー(床)「野望をもってしても埋められない詩に足りないもの」
(壁)「調査#5ふぅぅん、そういう風にできているわけね?」
東京オペラシティアートギャラリーのライアン・ガンダー われらの時代のサインをみてきました。
2017年に大阪と水戸で個展、2021年には東京展があるはずでしたがコロナで延期になり、今年ようやく実現にこぎつけました。
2021年にはガンダーガキュリエーションする収蔵品展が全館を使って行われましたが、これは個人的には同地の収蔵品展としては過去最高でした。
エントランスからして非常に不穏な雰囲気です。
床に散らばっているのはクレジットカード、ICカードなどを象ったシートを貼り付けています。壁の「O」の連続も作品の一部です。
ライアン・ガンダー「ウェイティング・スカルプチャー ゴドーを待つ時間」他
インスタレーションのセンスに定評のある同美術館ですが、不穏で殺風景な空間が続きます。
部屋中央の黒い箱は25個あり、それぞれ「ゴドーを待つ時間」「一日にインスタグラムをする時間」「オーガニズムに達する時間」を計るメーターが付いています。
ライアン・ガンダー「脇役(タイーサ、ペリクリーズ 第5幕第3場」
人物の彫刻は「リハーサルで出番を待つ脇役」だそうですが、正面にある黒い立方体、壁の汚れにより、やはり不穏な空気です。
この空間自体が不条理劇の一部に見えていきます。
ライアン・ガンダー「編集は高くつくので」
部屋最奥に鎮座するのは本展覧会最大の展示物で、ジョルジュ・ヴァントンゲルローという作家の「立体の均衡」という作品が膨れ上がったもの、とされています。
均衡が崩れ、重さで土台が壊れています。
もっとも土台もベニア板のようなので、実際にはそれほどの重さがなく、「壊れた土台の上で」均衡を保っているのかもしれません。
ライアン・ガンダー「あの最高傑作の女性版」
ウェキペディアによるとガンダー氏はコンセプチュアルアートに分類されるようです。
コンセプチュアルアートというと文字のみの作品や、記号、暗号じみていたりとっつきにくい印象があります。
一方同氏の作品は難解さは同様ですが、表現の形態は実に多様です。
上記は眉、瞼、目玉で表情が変化し続ける作品で、大阪展ではメインビジュアルになっていました。
ライアン・ガンダー「すべては予定通り」
これもハイテク技術を使っている(かもしれない)作品です。
ごく普通の椅子の上にはひっくり返った蚊がおり、瀕死のように痙攣します。
蚊のサイズは通常みられるものより大きく、意外と複雑な動きをします。
素材にアニマトロニクスとあり、ロボット工学を使ったハイテク作品なのかも?
ライアン・ガンダー「2000年来のコラボレーション」
これもアニマトロニクスを使った作品です。
同展覧会にはネズミを題材にした作品がいくつかあります。
壁から覗くネズミがガンダー氏の娘の声で映画「独裁者」のチャップリンの演説ノパロディをぶつというものです。
ネズミが、しかも9歳の娘の声で人間の独立を解くのは皮肉です。
他の動物よ、人間の轍を踏むな、ということでしょうか?
ガンダー氏の作品は難解ですが、同時に多弁でもあります。
さらっと見ても、よく考えても面白い展覧会になっています。★★★