国立科学博物館(上野)の「南方熊楠-100年早かった智の人-」(2017/12/19-2018/3/4)を見てきました。
南方熊楠(1867- 1941)は、日本の博物学者、生物学者、民俗学者。信奉者が多い一方で、本人の研究の領域が広すぎるせいでこれまでその全貌が紹介される機会はあまりありませんでした。
今回の展示は菌類図譜の新たに発見された部分を初公開するとともに、彼の業績や研究手法、人柄などを日記やメモ、手紙などから読み解こうというものです。
第一章では熊楠の生涯を豊富な資料を見ながら読み解いています。彼の友人たちのと往復書簡や・・・
旅先で書いたイラスト、
アメリカの研究者仲間から送られてきた標本帳など、色んなものが展示されています。
特に面白かったのが昭和天皇に標本を進献した時に用いられたのと同じキャラメルの大箱です。
2章ではサンプル採取の道具の展示です。植物を新鮮なまま残すためにその場で押し葉標本にしたり、
その場でカラー水彩画を描いたりすることがよくあったようです。
3章では熊楠の採取した「隠花植物」を現在の研究成果に照らして分析しています。当時は国内にこの分野の研究機関がなかったことから、熊楠は海外の友人や文献から知見を得ていたようです。
4章では新発見を含めた菌類図譜の展示です。菌類図譜とは熊楠が那智の山で採取した菌類を分類したもので、4000点近くもあります。ただ種類の特定ができてないものも多く、保存や水彩画のクオリティも独学で決して高いものではなかったようです。
5章では熊楠が取り込んだ神社合祀反対運動についてです。政府の土地の取得を目的とした神社合祀に反対したもので、その理由付けとして神社の土地の開発によって豊かな生態系が失われることをあげていました。
こちらが反対運動の結果、保存が決まった神島です。展示ではこの運動もこれまでの研究の成果の一部と位置付けられていました。
熊楠は知的エリートであるとともに、大学教育からは早々にドロップアウトしており、在野研究者の巨人でもあります。在野であるがゆえに、短期的成果を求められず、興味が赴くままに、心ゆくまで深く研究に没頭できたという側面があります。
今回の展示企画も異ジャンルの研究者が熊楠という一点に集まって協働し、実現したものです。これも一つのジャンル横断の形であり、タコツボ化に陥りがちの大学研究者にとって熊楠があこがれの対象になることがよくわかります。
熊楠の魅力がその業績ではなく、その気ままでありながら偏執的な研究スタイルにあることがよくわかる愛がある展示でした。ナンコレ度★★
ちなみに別室では関連企画「地衣類-藻類と共生した菌類たちー」も開催中です。
こちらも山奥の巨大地衣類から・・・
身近な地衣類まで幅広く扱っており、合わせておすすめです。