「あしたはどっちだ、寺山修司」を見てきました。
ちなみに上映されてたイメージフォーラムは同じく上映されていたYARN 人生を彩る糸 の飾り付けで柱や壁が毛糸で覆われていました。
寺山修司(1935-1983)は70、80年代に活躍した歌人、劇作家です。特に彼が率いる劇団天井桟敷は観客を巻き込むスタイルで有名です。 この映画は寺山さんの業績を振り返るとともに、47歳で亡くなった寺山さんが実現できなかった幻の市中劇第三弾「犬」を考察しながら、寺山さんが本当にやりたかったことを考えるというドキュメンタリー映画です。生前の寺山さんの学生時代から劇団関係者まで、その人柄を知る人も勢ぞろいします。
ここでは以下の3つのポイントでこの映画の見どころを紹介したいと思います。
➀市中劇「ノック」
②市中劇「犬」
③寺山修司のやりたかったこと
「ノック」は寺山修司のもっとも著名な作品です。観客は住民票(転入届)と地図をもらい、杉並区全体を巡りながら劇を探すという前代未聞の劇です。今回の映画は30時間にも及ぶ劇を貴重な残存する映像と劇画タッチのイラストを用いて、事細かに紹介しています。そのなかでこのような演目がありました。
主役(?)の包帯ぐるぐる巻きのミイラ男がアパートに入り、次々にドアをノックする。出てきた妊婦が驚いて警察に通報し、ミイラ男はあえなく逮捕される・・・
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寺山さんは警官に逮捕されるという事件も劇に取り込んだといえます。一方、天井桟敷は警察の介入をかいくぐるために暗号表を作ったり、条例を研究したりと相当な労力をかけていたので、逮捕はやはり痛恨撃だったとも言えます。しかし実際にはドアをノックしたのは悪乗りした観客だったともいわれ、だとすると観客も寺山さんによって操られていたことになります。
劇の後半では警察の介入はますます激しくなり、警察が「首謀者の寺山を出せ!」と怒鳴れば、劇の継続を望む観客のあちこちから「俺が寺山だ!」と声が上がる始末。しかしついに劇は完結せずに中止を余儀なくされます。
「ノック」以降も市中劇というものがなかったわけではありませんが、警察とカーチェイスを演じる劇は後にも先にもこれだけです。
考えてみれば、この劇が行われた1970年代といえば、大阪万博が開かれ、黒川紀章は家を車に乗せて移動できるというコンセプトの中銀カプセルタワービルを本当に立ててしまった時代です。「ノック」も個人の妄想が本当に形になってしまう時代の熱気や日本という国の若さが生み出した特異点の一つだといえそうです。
「ノック」の成功(?)後寺山さんは新たな市中劇「犬」を計画します。しかし病に倒れた寺山さんは「犬」を実現する前に47歳でこの世を去ります。
いったい「犬」とはどんな演劇だったのでしょうか?関係者の証言によると、
・とある村に100人の詐欺師が潜入する
・本来の村の住民はこの100人によって完全にコントロールされる
・100日後停電とともに100人の詐欺師は忽然と村から姿を消す
というないようだったそうです。これはもはや劇ではなく壮大ないたずらですが、寺山さんは初期より劇を通して日常への異議申し立てに深い関心を寄せていました。
ある劇では寺山さんの挑発に乗せられた観客が舞台に飛び乗って日本刀を振り回して暴れ始めた。このとき劇団員の一人がこの日本刀男を糸で操るような動作をしたため、客はこれも劇の一部だと思ったといいます。
他にも海外上演された「阿片戦争」という作品では観客を迷路に閉じ込めたり、睡眠薬入りのスープで眠らせようとしたりと、やりたい放題でした。
どのような形になっていたかわかりませんが、寺山さんが今も生きていれば、行くところまで行っていたと思われます。
劇作家でありながら、「劇の解体」を目論んだ寺山修司。これは「小説の解体」を企んだ筒井康隆さんとも似ていますが、純粋な知的遊戯だった筒井さんに比べると、寺山さんはもっと骨がらみな印象を受けます。
寺山修司は青森県弘前市の生まれ。父、寺山八郎は寺山さん10歳の時に太平洋戦争にて戦死。母ハツは米軍将校の愛人になり、母子にはいろいろ確執があったようです。
そもそも父八郎は祖父と寺山家の女中の間に生まれた婚外子であり、母ハツの出自もよく分かっていないそうです。
三沢時代には寺山母子は叔父の家に居候していましたが、周囲にはこの叔父の子であるかのようにふるまっていたといいます。嘘だらけの作文で受賞したこともあり、のちに書かれた電気が嘘だらけだったように、その虚言癖は既にこの頃からあったようです。映画ではこの辺りの寺山さんのメンタリティを掘り下げていたのが印象的でした。
新事実は色々明らかになりますが、映画自体は寺山さんの奇想天外の人生に対してそれほど奇抜な印象はないです。とはいえ寺山さんの思想を2時間弱で学べるというのは非常にコストパフォーマンスはいいと思います。ナンコレ度★★
★渋谷アングラカルチャーの象徴「現代演劇ポスター展2017-演劇の記憶、時代の記憶、デザインの記憶、都市の記憶」 – 博司のナンコレ美術体験2017年12月31日 3:31 PM /
[…] 笹目氏は寺山修司にポスター貼りを頼まれたことをきっかけにこの業界に入り、現在はアングラ劇のポスターの保存と展示、アングラ劇の支援を行っています。 […]