• 日々観た展覧会や関連書籍の批評をしていきます。

★★真面目と不真面目の境界「MAMスクリーン007:山本 篤」

森美術館(六本木)のMAMスクリーン007:山本 篤【2017.11.18(土)~ 2018.4.1(日)】を見てきました。

 

長短合わせて60分ほどの複数の動画作品で構成されます。

本篤「過去と未来は、現在の中に」

最も長い動画である「過去と未来は、現在の中に」はちょっとした映画のような作品。妊娠中の山本さんの現在の奥さんとの沖縄旅行のシーンと、15年前の山本さんがタイ留学時の現地恋人とのシーンが交互に流れます。

奥さんのシーンには山本さんは一切登場しません。一方元恋人とのシーンは当時巡った場所を再び訪れながら思い出を語り合うというものです。

元恋人は「(山本さんが)戻ってきてくれて嬉しい」と何度も繰り返します。15年前山本さんと元恋人との間に何があったのかは具体的に語られませんが、いろいろなことを想像させる意味深なシーンです。元恋人は現在結婚を断念し、甥と養子縁組をしています。誰もが敢えてやろうとしない、過去の恋人の現状や内面に分け入ることにより、選択されなかった未来が浮き彫りになります。

第一子の出産という人生における大きな岐路を迎えるにあたって、自らの選択/非選択とも向き合おうとする作者の意図が伺えます。

 

本篤「青いおばけ」

一方短編動画はコミカルな作品が多いです。「青いおばけ」は山本さん自身が扮するおばけが中年を慰める(そして拒否される)だけの作品です。都内有数のビジネス街の森ビル内の展示であることを考えると、くたびれたサラリーマンに寄り添うことがいかに困難か、を表しているような気がしてきます。

本篤「不可能の可能性」

「不可能の可能性」は山本さん自身が車輪のないスケートボードでトリックを決めようと悪戦苦闘します。タイトルは「可能性」ですが、むしろ僕は可能性のないことに挑戦する不毛さを訴える作品に思えました。

 

本篤「山を越える」

サラリーマンがホームレスの荷物を奪おうとする「山を越える」。一見利害の対立のない2人が争うことは現代社会の分断を思わせます。

加えてなぜ舞台は山道なのか?サラリーマンに襲われ荷物を捨てても毅然と山道を進むホームレスは試練に立ち向かう者を表しているのでしょうか?

 

本篤「美しく燃える石」

警備員のバイトをする若者の趣味はカープの応援。警備員の誘導灯を振る仕草とメガホンを振る仕草の共通点に着目。仕事と遊びの境界は人間の主観に過ぎないことを表しています。

 

夜遅くまで空いている美術館なので、じっくり見たい作品です。★★

 

 

 

 

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