埼玉県立近代美術館(さいたま市)の版画の景色 現代版画センターの軌跡【2018年1月16日 (火) ~ 3月25日 (日)】を見てきました。
現代版画センターとは1974から1985年まで存在した会社です。その活動の目的は版画の地位向上と普及で、方法としては、
➀アーティストにオリジナルの版画を制作してもらい
②それを会員を募って低価格で販売し
③全国で展覧会を企画し版画の普及に努める
というもの。
最後は倒産したとはいえその昔の置き薬や通信販売とも似た独特の活動は今日振り返っても大変面白いです。
展覧会では同センターの作品700点余のうち1/3程度を展示するとともに、当時の展覧会の写真や会員向けの出版物も展示してその熱気を再現しようというものです。会場の構成もいくつもの展覧会が同時に開催されているかのような雰囲気を持っています。
今回の展覧会カタログはユニークな形状をしています。
ケースの中にテキストブック、ヴィジュアルブックと年表が収められています。年表の左側は展覧会を行った全国各地のスペースを示します。
記念すべきエディション1は虹色の表現で有名な靉嘔「I LOVE YOU」。11,111部製作され、1000円で販売されました。版画が5ケタ刷られることは前代未聞で、「オリジナルの作品を一般市民の手に」という同センターの理念を明確に示す作品です。
布にチェ・ゲバラの旗が刷られています。布の皺と旗の皺が二重のレイヤーを形成しています。島さんはカーテンにカーテンを刷ったり、実験的な作品を多数制作しました。同センターの作家は真面目路線が多いので、島さんの仕事は版画の幅を拡大する貴重なものでした。
関根伸夫さんはもの派の巨匠として有名ですが、同センターの活動のため全国の展覧会を講演で回るなど、最も積極的に関わった作家です。
それはそうと、版画作品は寡黙な彫刻作品と違い、ユーモアにあふれるものになっています。
関根さんの仕事を考えるうえで、これらの版画作品は大変参考になると思います。
2017年に青梅市立美術館で個展のあった高柳さんの作品。こうやって他の作家さんと並べてみると、かなり饒舌な作品ですね。
同センター最大の大きさを誇る磯崎さんの作品。群馬県立近代美術館のイメージ図である立方体の格子の版画に、実物の格子がめり込んでいます。版画としては反則気味ですが、磯崎さんがある意味建築の設計以上に版画制作にのめり込んでいたことが分かります。まあ実物の群馬県立美術館を見てもこんなイメージは浮かばないのですが・・・
メディアアートの巨匠、山口勝弘さんの作品。東京都現代美術館が所蔵する大型立体作品を版画化したものです。
これも元の作品はすりガラスを通して絵を見るみたいなものですが、版画だと十分効果が出てません。これだと単なる高価な写真でしかないと思うのですが・・・
具体出身で絵本の絵担当でも活躍した元永定正さん。茫洋とした温かみのあるキャラクターが特徴ですが、同時に版画の場合、色の強さとグラデーションが同時に楽しめる作家でもあります。
菅井さんは本展覧会で最も多い点数が出品されていました。車好きでそれに関する作品が多数あります。インクの厚みを明確に感じる力強い作品ですが、バックの写真によってさまざまな想像力が膨らみます。
同センターが末期に渡米しアンディ・ウォーホルにアタックしてオリジナル版画を作ってもらったのは面白い活動です。桜と菊の写真を大量に持っていき、ウォーホルに選んでもらったそうです。
日本のモチーフ、日本の紙、日本の刷師にこだわった作品で、ウォーホルは日本の刷師のレベルの高さに驚いたそうです。
ウォーホルに関してはこれが縁で全国で個展をやったり、栃木県の巨大地下空間である大谷資料館で展覧会をやったりしました。
日本では江戸時代には浮世絵などアート制作工房や複製作品の文化が根付いていたにもかかわらず、明治維新以降の近代化の過程で油絵などの一点ものに過剰に傾いたという過去があります。同センターの活動は江戸期の「アートを市民の手に」という理想復活に向けた運動であり、今日再評価、継承すべき仕事であることが分かりました。
一見玄人向けですが、大物作家も多数出品していますし座って見れるスペースも多いので広く楽しめる展覧会だと思います。ナンコレ度★★★
版画の景色 現代版画センターの軌跡
埼玉県立近代美術館
会期
2018年1月16日 (火) ~ 3月25日 (日)
※会期中に一部展示替えがあります。
前期:1月16日 (火) 〜 2月18日 (日) 後期:2月20日 (火) 〜 3月25日 (日)
休館日
月曜日(2月12日は開館)
開館時間
10:00 ~ 17:30 (入場は17:00まで)
観覧料
一般1,000円 (800円)、大高生800円 (640円)
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