国立新美術館(六本木)のクリスチャン・ボルタンスキー – Lifetime【2019年6月12日(水)~9月2日(月)】を見てきました。
ボルタンスキー氏はユダヤ人で、初期はホロコーストを彷彿させるような作品を多く制作していました。
しかし2000年以降は関心の幅を広げた、多様な作品を作るようになり、伴ってファンも増えて行きました。
瀬戸内海の豊島や新潟県には建物と一体化した大型作品も作られ、日本との関わりも増えてきました。
今回の展覧会は初期から最新作までバリエーション豊かな作品が揃った貴重な機会となっています。
特に注目の作品をピックアップしてみたいと思います。
何点か展示されていたミニマムアートの1点。
ボルタンスキー氏の作品は生と死が大きなテーマになっていますが、これはその中でも最も即物的なものです。
ボルタンスキー氏が生まれてから経過した時間を秒でリアルタイムでカウントしており、氏が死ぬとカウントは止まります。
9台のモニターからなる作品です。
オーストラリアの大富豪が購入した作品で、ボルタンスキー氏の仕事場の映像をリアルタイムで配信し続けています。
こちらも「最後の時」と同様、氏自身を作品テーマにしたもので、またこの場に不在の氏の存在を強く感じさせられる作品です。
展覧会というと過去の作品を展示するものですが、本作は現在も氏が活動しているという同時代性を強く感じさせられます。
黒い服をたくさん積んだだけの作品。
服を積み上げてタイトルを単に「ボタ山」としたところに氏のユーモアを感じます。
氏は近年服を使った作品を多く制作しています。
これは以前顔写真が登場人物になっていた代わりだと考えられます。
「来世」という電飾と紙製のミニマムな表現のビル群の模型群がセットになった作品です。
説明では「塔の迷路をさ迷い歩く」となってましたが、実際には塔の間はあまり歩けません。
他の作品もそうですが、氏の作品は外観はチープなものが多く、この作品も夏休みの小学生の工作レベルです。
無表情な高層ビル群は来世に期待しないことの表れでしょうか?
ボルタンスキー氏には様々な人の顔写真を使った作品が多くありますが、これは氏自身の顔を使った作品。
入り口部分に吊られたすだれにプロジェクターで自画像を映しています。
自画像は7~65歳まで変化します。
人生のほとんどをカバーしながら作品タイトルが「合間」とは面白いです。前世、来世を意識した作品でしょうか?
正確には今回の出品作ではないのですが、美術館地下で上映されていたボルタンスキー氏の記録映画です。
国内外に設置されたインスタレーション作品や、過去の展覧会の様子も見れます。
氏の作品に関する根本の考え方も簡潔に語られており、展覧会の理解には不可欠です。
ここで紹介されていた作品の一つである「ドイツ国会議員の記録」は祭壇シリーズで使われたものに似た箱の正面にドイツ国会ができて以来の国会議員の名前、党名を列挙しただけの作品。当然ヒトラーも含まれています。人に興味を持つ氏らしい作品であると同時に、各政党の興亡も伺える、多様な解釈のできる作品です。
こちらもかなりチープな出来。氏がいう「ユーモア」が最も感じられる作品です。何点か展示されていた影絵の作品のうち、もっとも巨大で、今回の展示のために制作されました。
小さな子供連れのお客さんも多かったようですが、彼ら彼女らからすると今回の展覧会はお化け屋敷でしょうか?
そうと説明されなければ分かりませんが、ここに並んでいる顔は新聞の悲劇的な記事の顔写真を拡大したもの。アンディ・ウォーホルの「電気椅子」や「交通事故」を彷彿させる作品です。
氏の代表作の祭壇シリーズのひとつ。シリーズは顔写真、ランプ、ブリキのお菓子の箱の3点セットが基本ですが、本作はお菓子の缶がありません。
氏によると本作にスイス人を使ったのは、永世中立国であるスイスの人々には死すべき悲劇がないからで、氏なりのユーモアらしいです。
これ以外にも本展は大小の祭壇シリーズが一挙に見れる貴重な機会です。
フライヤーなどにも使われている作品です。
南米のパタゴニアの海岸に設置された作品で、今回は3枚のスクリーンで見ることができます。
3枚のスクリーンのうち、左右はラッパのオブジェを映し、正面はクジラが映っていると思しき海を映します。ラッパからはサイレンのような音が鳴っています。
パタゴニアではクジラは時間の起源を知る生き物とされており、氏がクジラにラッパで問いかけるという作品です。
これまで人を対象に探求していたのが急にクジラなので異色の作品にも感じますが、氏の未知への果てしない探求心を表す作品です。
一見とっつきにくい作品が多いように感じますが、テーマは普遍性があるので意外と誰が見ても楽しめる展覧会だと思います。ボルタンスキーのユーモアやいつもと違う国立新美術館の会場演出にも注目です。★★
★★「塩田千春展:魂がふるえる」 – 博司のナンコレ美術体験2019年7月28日 9:50 AM /
[…] 燃えカスを作品化したり、衣服を使ったりするのは遠藤利克氏やボルタンスキーを思わせますが、意外にも作品のテーマは彼らより分かりやすく共感できるもので、好感を持ちました。★★★ […]