千住博さん、野地秩嘉さんの「ニューヨーク美術案内」を読みました。
千住博さんといえば滝の抽象画で有名です。活動はNHKの日曜美術館の解説をやったり、軽井沢に個人美術館があったり、羽田空港国際線の到着口の正面に巨大絵画があったりしてます。そのため平山郁夫や東山魁夷のような御用画家なイメージがあってあまり好きではありませんでした。
しかし本書を読んでから少し印象が変わりました。やはり日曜美術館の解説を任されるだけあって話が分かりやすく、かつ説得力があります。
本の内容はタイトル通り、メトロポリタン美術館、ニューヨーク近代美術館、チェルシーのギャラリー群、フリック・コレクションを回りながら、アートの見方を提案するというもの。あくまで千住さんが「僕はこう見る」と意見を言っているだけで、押しつけがましいところがないのもいいです。
メトロポリタン美術館はあまりにも広すぎるので、目的の作品をガーっと見て終わりって方がほとんどではないでしょうか?
千住さんも主要作品に解説を絞っていますが、他に美術館の壁の色の使い分けや、照明の当て方に注目しているのが面白いです。
確かに僕が行った時も日本美術室は日本の文化に対する深い理解と見せ方の工夫が見れました。西洋では美術館のキュレーターは大変なエリートだそうですが、これほど広い美術館で隅々まで手を抜かずに専門家を揃えるのは、アメリカのスケール感の巨大さを感じます。
面白いと思ったのがゴッホの解説です。まず絵具に当時最高のものを使っていたおかげで、同時代の他の画家の作品と比べて抜群に保存状態がいい。これは弟のテオが最高の画材を常に用意したこともありますが、ゴッホが絵画を長く残るものにしたいと考えていたからだと分析しています。それがゴッホが絵画を通した神との対話の方法だったのです。
またその独特の画法もゴッホが見たままを描くために試行錯誤の末に生み出したものとしています。あまり器用ではなかったゴッホは人物画よりじっくりと描ける風景画を好み、画面が昼なのか夜なのか判別しづらいのも描いているうちに夜になってしまったからでは?と分析しています。
ニューヨーク近代美術館でもニューマン、ウォーホル、リキテンシュタイン、リヒターなど大御所クラスの作家を多数紹介しています。
ここで面白いと思ったのはデヴィッド・サーレ の解説です。ここでも絵具の解説に話が及んでおり、緑色は人工的に合成されたものをあえて使い、作り物めいた不安感を露骨に演出しています。左右で全く違うイメージを描くのは雑誌の見開きをヒントにしたといいますが、ここでも我々が普段何気なく受け入れているものへの違和感を表出させることに成功しています。
チェルシーのギャラリーでは千住さんの現代アートに対する正直な気持ちが表明されています。ニューヨークなどの最先端を走るギャラリーで作品を購入する富豪たちは、その作品を好きで買うというより、最先端の作品ということで買っている人がほとんどだといいます。彼らの合言葉は「フォワード・ルッキング フォワード・シンキング」。「俺は人の後を行くような男ではないぞ」という意味です。千住さんの「すべての作品に共感できるわけじゃないから」という言葉は、最先端のアートという価値観に振り回されることに対する拒否を表したものだと考えられます。
とあるアパートの出窓に飾られた着せ替え熊の話や、美味しい飲食店情報なニューヨーク在住ならではの情報も載っています。とはいえ観光ガイドとしてより普遍的な絵の見方の勉強になる一冊です。ナンコレ度★★
タダで見れる個人美術館★羽田空港内の千住博作品 – 博司のナンコレ美術体験2018年9月9日 9:36 AM /
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