映画「ジェイン・ジェイコブズ ―ニューヨーク都市計画革命―」を見ました。
ジェイコブズは日本では著書「アメリカ大都市の死と生」によって有名です。
特に黒川紀章氏はかなり早くから本書に注目していました。
この映画は都市計画家のロバート・モーゼスをジェイン・ジェイコブズが叩きのめす、という勧善懲悪な展開で話が進められます。
モーゼス氏は貧困問題の解決としてスラムを解体し、低、中、高所得者別に高層マンションを作る、という計画を進めてきました。
が、この計画は失敗に終わります。特に低所得層向けの住宅は犯罪の温床となり、数年で爆破解体されることになります。その象徴がミノル・ヤマサキの「ブルーイット・アイゴー」です。
この失敗の要因としてはスラムでは道に人がたむろしており、相互監視機能があったのですが、高層マンションにはそれがなく、犯罪に歯止めが利かなくなったためとしています。
これと並行して、モーゼスのワシントン中央公園に道路を通す計画と、ロウワーマンハッタンに高速道路を通す計画がジェイコブズらの反対運動によって阻まれ、やがて彼は失脚することになります。
また映画では同じ時代にレイチェル・カーソンの環境問題をはじめとし、黒人差別問題、同性愛問題が次々と起こったことを紹介しています。この映画の製作者が市民運動に深い共感を持っていることが透けて見えます。
しかしこの映画は物事の一面性のみを語っており、都市計画の成功例について目をつぶっています。
例えばこの映画ではアメリカでの都市計画の先祖としてル・コルビジェが紹介されています。映画では彼のパリ改造計画が挫折し、アメリカに持ち込まれた結果、どこの都市も均一な団地ができてしまったとしています。
しかし映画では今日でも使われている彼のパリの集合住宅「ユニテ・ダビタシオン」には全く触れていません。
モーゼスは少なくとも貧困の解決について案を出しましたが、ジェイコブズは反対運動をするだけで実際の都市改良に参加することはしませんでした。スラムは維持され、道路は渋滞したままというわけです。
日本では前述の黒川氏がジェイコブズの理論を現代建築に生かしています。氏は彼女の「人々がたむろする道」を江戸の町づくりも参考にして数々の「道の建築」を生み出しました。特に福岡銀行本店は今日でも都市のオアシスとして人々の憩いの場になっています。
また氏は都市計画でもこの理論を活用してます。「湘南ライフタウン」では農村部を残したり、道を蛇行させたりしてジェイコブズの「古い建物を残す」「複数の機能を持たせる」という提案を実行しています。同様の例は大高正人氏や菊竹清則氏らメタボリストたちにも見られます。
この緑を残す都市計画は空港の設計にも生かされています。
都市計画の失敗はアメリカと中国では当てはまるかもしれませんが、ヨーロッパや日本では必ずしも当てはまりません。映画はジェイコブズを称えるだけはなく、都市計画の複雑さを一端でも伝えてくれればより良いものになったと思います。★