「レンゾ・ピアノ 航海日誌」を読みました。
本書は「建築家という職業、それは冒険家と同じ意味を持つ」という文章から始まります。ピアノが建築を作るという行為を冒険に例えていることは本のタイトルからも分かります。
実際チバウー文化―センターのように彼の建築行為は未知との遭遇の連続でした。
そしてそのたびにこれまでと全く違う解決法で、全く新しい建物を次々に建てるのです。
文章は平易で読みやすく、磯崎新氏のような哲学、思想的文章や、篠原一男氏のような凝った惹句も皆無です。
今回も特に気になった建築を見ながら、彼の考えを読み解いていきたいと思います。
オランダ・アムステルダムの科学博物館です。
川に向きあっていて、川底を走る地下トンネルの入り口の上に建っています。
その形状は明らかに船を単純化したもので、振り幅の大きいピアノの建築でも珍しい直喩的な表現になっています。
建物の上はすべて展望台になっているという大胆な造形。
本書はその土地に対する記述がかなり多いのですが、本建築についても低地であるオランダとオランダ人について書かれています。
親水性の高い土地柄を生かし、この建物は1階部分がガラス張りになっており、トンネルを通る車からも展示の一部を見ることができるそうです。
パリの高速道路脇に建つショッピングセンターです。
この形状も高速道路を避けることにより決まりました。
建築業界では商業施設は低く見る傾向があり、ピアノの作品として本建物が紹介されることは少ないです。
しかし本建築はピアノ最大の建築である関西国際空港に繋がる要素を多く持っています。
表面のステンレスパネルは関空でも使われており、少ないパネルの種類で多様な形態を実現するための試みがなされています。
屋根は遠目には単純な形をしているように見えますが、実際には隕石に例えられるように結構凸凹しているらしいです。
ピアノは商業施設なので人目を引かなくてはならない、と語っていますが、実際には表現はかなり抑えられているように感じます。
パリの美術館で、世界三大現代美術館のひとつ。
こんなモダンな建物が1977年にオープンしたとは驚きです。
本建築に関するエピソードは豊富で、本書に多く収められています。
例えば建物に使われた巨大な梁は建設反対派を避けるために夜中に秘かに搬入されたとか・・・
「ポンピドーセンターは決して私を離そうとしない」と言っている通り、このピアノ初期の傑作はその後も設計者とかかわりが深いです。
コンスタンティン・ブランクーシのアトリエの増築もその一つ。
今でもセンターの近くにピアノの事務所があるとか。
アメリカ・ヒューストンの個人美術館です。
ピアノは「ポンピドーセンターはハイテクのパロディ」と言っていますが、この建物こそ、本物のハイテク建築です。
その結晶が「リーフ」と呼ばれる屋根で、調光や換気を担っています。
本建物もまた後にサイ・トゥオンブリ美術館を増築するなど、長くかかわることになります。
完璧主義者だという施主の性格を反映してか、展示室がきっちり並列に並んでいる様子がなんだか楽しそうです。
ポンピドーセンターと並んで代表作と認識されています。
最大の特徴はやはり屋根です。
気流の流れをそのまま形態にしたものですが、たった1種類のパネル8万2000枚で構成されているそうです。
建設業者の父親と兄を持つだけあり、本には建設中の写真が多く収められています。
また日本人へのリスペクトも記述されています。
彫刻家・新宮晋は多くの建築でピアノと協働しています。
構造建築家・ピーター・ライスはピアノと長く協働してきましたが、本建築の竣工を待たずに亡くなりました。
震災などでもごく被害が少なく、その設計の合理性が実証されました。
日本の空港のうち個人名が設計者として刻まれているのはこの空港だけで、ピアノの実力のほどが分かります。★★★
建築図鑑134★★プログラムの傑作「埼玉県立大学」 – 博司のナンコレ美術体験2019年6月11日 7:20 AM /
[…] 黒川紀章氏(クアラルンプール国際空港)、ノーマン・フォスター氏(北京国際空港)、レンゾ・ピアノ氏(関西国際空港)、原広司氏(梅田スカイビル)などは皆このプラグラム建築の名手です。 […]