映画「霊的ボリシェヴィキ」を見てきました。
「リング」の脚本家、高橋洋監督の最新作です。
撮影場所は埼玉県の旧所沢市立第2学校給食センター。ここは芸術家と評論家の自主企画展覧会「引込線」の会場でもあります。普段は倉庫として活用されていますが、展覧会中は中に入れます。
もちろん映画中には芸術作品は登場せず、代わりに円状に並べられた椅子、テープレコーダー、大量に配置された集音マイク、レーニンとスターリンの肖像画などが道具として登場します。
この廃墟は展覧会場としても、映画の撮影所としても不適切です。巨大な天窓のせいで部屋の明るさは天気によって左右され、作品や映像の見え方を左右します。おまけに施設内には水も通っていません。
しかし不必要なまでに巨大な天窓、所狭しと縦横無尽に走るパイプ群、謎めいた巨大な機械群などからなるこの饒舌な空間は、ただ朽ち果てさせるにはもったいない魅力を放っています。給食センターの空間はソ連の機械的な合理主義と、謎めいた神秘主義の融合をうまく表現しています。
映画の基本プロットは百物語によって交霊実験を行うというもの。ただ物語が進むにつれて呼び出すものが何であるかが、人によって認識のズレが生じます。
パンフレットには高橋監督をはじめとするスタッフの豊富な知識がびっしりと書かれており、読みごたえがあります。そこでオカルトとソ連との関わりが明らかにされています。
しかし、作中ではそのような背後関係は語られません。登場する共産主義のモチーフはレーニンとスターリンの肖像画とボリシェヴィキ党歌ぐらい。
日本ではナチスドイツのオカルト主義はそれなりに知られていますが、ソ連とオカルトの関わりはほとんど知名度がありません。そのことが本作の謎めいた雰囲気を助長しています。
もう一つ面白いと思ったのが作中で語られる「山の稜線を這っていたもの」のイメージとして有名な妖精の写真が用いられていることです。
東京都写真美術館の恵比寿映像祭でも取り上げられたこの写真は今日ではインチキであることが判明しています。手前の妖精は雑誌の切り抜きに過ぎないのですが、解説によると雑誌の切り抜きという「平面性」こそが異界との接続を示すとしています。異界の生き物というわけの分からないものを現実世界に置き換えて表現したとき、常識では考えられない見え方になるはずという考え方です。
このように本作では既に使い古された道具に新たな味付けをして再提示するという手法が多用されています。百物語というJホラー以前の手法でありながら、語りや、声や音のズレによって鑑賞者に作中の人物との共感覚を起こすよう工夫が凝らされています。「リング」の頃から比べるとその演出は長足の進歩を遂げたと言ってよさそうです。★★★