• 日々観た展覧会や関連書籍の批評をしていきます。

★★無限大の可能性「インポッシブル・アーキテクチャー もうひとつの建築史」

埼玉県立近代美術館(埼玉県浦和市)のインポッシブル・アーキテクチャー もうひとつの建築史【2019.2.2 [土] – 3.24 [日]】を見てきました。

 

実現しなかった建築ばかりを扱った展覧会です。

兼ねてより建築の展覧会は実物がないので伝わりにくいという問題がありました。

この回答として本当に建築そのものを展覧会のために作ってしまった安藤忠雄展があった訳ですが、今回はそもそも実物がどこにもない展覧会ということで、鑑賞者の想像力が試されるレベルの高い展覧会になっています。

しかも非実現の建築が評価されるのはその理論によって、ということが多いので、コムズカシー建築が多いのです。

今回の展示でもレム・コールハースの「フランス国会図書館」などはあまり具体的なイメージがわきませんでした。

もっともこれは展示が悪いというより、十分なイメージを提示していないコールハースが悪いのですが。

やはりというか今回の展示でも理論のみの実現を目指さない建築や、夢想的な建築も多く、共感できないものも多々ありました。しかしこのような機会がなければ紹介されないであろうレアものも多く、結果として普段の建築展とは違う面白さがありました。

特におすすめの作品を紹介します。

 

10位.ウラジーミル・タトリン「第3インターナショナル記念塔」

非実現建築といえばこれ!というぐらい有名な作品です。タリトンで検索しても情報はこの日実現のプランばかりが出てきて、他にどんな活動をしてたのかよく分からないぐらいです。

今回は長倉威彦氏のCG作品とともにその威容が楽しめます。

形状ばかりが有名ですが、実は単なるタワーではなく内部に4つの部屋が設けられており、会議室、出版局、情報局など共産党の施設として計画されていたとか。しかもそれぞれ年一回、月一回、日一回、一時間一回回転する予定だったそうです。

プーチンさん今からでも偉大なロシア復活のために作ったらいいのに。

 

9位.ザハ・ハディド「新国立競技場」

来館者に大人気だったのがこの作品。

非現実的、ムダにデカい、高コストなど散々批判されたプランでしたが、展示では大量の資料をそのまま見せて、ザハ側がいかにこのプランに本気だったかを訴える内容でした。

ただ展示はやたらザハの肩を持っていましたが、これだけ巨大プロジェクトなのだからザハ側は実現が決まった後も政府側をしっかり押さえておく必要があったと思います。

ザハは日本政府(敷いては日本国民)に騙された被害者なのは事実ですが、結局実現しなかったのは一般国民に訴える魅力がなかったせいだと思います。

 

8位.藤本壮介「ベトンハラ・ウォーターフロントセンター」

ほとんど通路ばっかり!どこに室内があるのか、不思議な建物でした。

 

7位.マーク・フォスター・ゲージ「西57丁目のタワー」

大金持ち向けの砂上の楼閣。昆虫など自然界の色々な形がそのまま壁面にとりついており、悪趣味極まりない。あっという間に古びそうな即物的、露悪的なデザインですが、ゲイリーのグッテンハイム・ビルバオ美術館の後にはこんな建物が来そうな気がします。

 

6位.磯崎新「東京都庁舎」

丹下健三氏の実現した都庁は名作だと思っていますが、市民の広場作りでは致命的に失敗しているのも事実で、威圧感たっぷりの建物は見上げる、見下ろすの関係を強く意識させるものでした。

その点この案は建物内に巨大な十字型の広場を設けるという点で画期的でした。

ただデザイン性はやはり現都庁が勝ってるような・・・無料展望台もあるし。

5位.ハンス・ホライン「航空母艦住宅」

 

ホラインの「あらゆるものは建築である」という提言はあらゆるデザイン、形、様式が脈絡なく建築に取り込まれるポストモダン建築への予言だったといえます。

が、実現した作品よりこのペラ紙一枚の方がいい作品に見えてしまうのは建築家としてどうなんでしょうか・・・

 

4位.会田誠・山口晃「都庁本案圖」

会田誠さんが案を出し、山口さんが清書した作品です。

2018年の会田誠さんの展覧会は極めて建築的で、面白いプランなのですが、本人が実現する気がないのが残念です。

 

3位.ジュゼッペ・テラーニ「ダンテウム」

テラーニの作品は立面が実にキマッてるイメージですが、この作品も四方と上から見ると面白い形が見えます。

ダンテの世界観を体現した一種の博物館で、来館者は4つのゾーンを巡ることでダンテの作品を体験できるそうです。

 

2位.黒川紀章「東京計画-Helix」

メタボリストたちのプランも多く展示されていましたが、今回はこれが一番。

特にピエール=ジャン・ジルー氏のCG動画作品は、この建物が汐留から東京湾にかけて大量に建っていたら、という夢想を元に作られています。

山手線やゆりかもめなど実際の風景を取り込んだ映像は間違いなく今回の展示の主役の一つです。

 

1位.荒川修作+マドリン・ギンズの 「問われているプロセス/天命反転の橋」

荒川さんは建築家ではなく芸術家ですが、後半の作品は大半が建築的、もしくは建築そのものです。

フランスの都市にかけられる予定だった橋ですが、はしというよりアスレチックジムです。

こんなもの実現するはずがない、と思いきやこれ以上の規模で実現したのが天命反転地です。

上記の建築家たちは実現作は非実現作ほど面白くないことが多いですが、荒川氏は逆!

ここが荒川氏が凡百の芸術家、建築家と違う点だと思います。

 

難しいところもありましたが、全体として大変野心的な展覧会でした。こういった企画はどんどんやって欲しいです。なにしろ実現作より非実現作のほうが圧倒的に多いのだから・・・★★

コメント一覧

2019年展覧会上半期ベスト – 博司のナンコレ美術体験2019年7月3日 12:16 AM / 返信

[…] 6位.インポッシブル・アーキテクチャー もうひとつの建築史 […]

2019年展覧会ベスト – 博司のナンコレ美術体験2020年1月6日 10:29 PM / 返信

[…] 10位.インポッシブル・アーキテクチャー もうひとつの建築史 […]

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