森美術館(六本木)の「カタストロフと美術のちから展」【2018.10.6(土)~ 2019.1.20(日)】を見てきました。
「アートは何の役に立つのか?」というテーマは特に現代アートでは頻繁に語られる問題です。本展覧会はそのテーマに真正面から向き合ったもので、結構レアな存在です。
展覧会のタイトル通り、構成ははじめに「カタストロフ」、後半に「美術のちから」を実感できる作品が展示されています。
そういうわけで前半は「惨劇博物館」といった趣。
始めに展示されているのはトーマス・デマンドの写真作品の実物模型のような、ビルの崩壊現場。
近くで見ると段ボールでできていることが分かります。ディテールがなく、非常に安っぽい・・・
ひしゃげたピンクの鉄筋がビニールテープのように四方に延び、惨劇にも拘らず祝祭性を感じさせます。
壁に書かれた文字は過去の偉人の破壊と再生についての文章です。
阪神大震災の際の写真で有名な宮本隆司氏の作品も展示。
惨劇を淡々と撮影したものですが、宮本氏はその後磯崎新氏と組んで国際展で神戸の瓦礫と写真を撮るなどして活躍することになります。震災をきっかけに名を上げることになったのは本人にとって良かったのでしょうか・・・?
カタストロフというよりひたすら不気味な黄海欣氏の作品。この他にもフランシス・ベーコン的な絵画が続きます。
遠目には黒い皿が並んでいるようにしか見えない作品。
実は壁掛けの時計を塗りつぶしたもの。表面には原発の作業員が描かれています。
全部違う人物のようですが、同じ防護服を着ているので区別はつきません。
秒針が動く音と無機質な防護服が並んだ様子は、人間の個性をはぎ取る巨大な原発の非情さを感じます。
タイトル通り、ベニヤ板で作られた即席の細い通路の両側に石鹸が塗りこめられています。
オレンジの部分が石鹸です。
ポーランド出身の作家にとって、石鹸はホロコーストの象徴。
アウシュビッツではドイツ人がのガス室送りにするユダヤ人に石鹸を手渡したと言われています。
またドイツ人はユダヤ人の死体から石鹸を作ったともいわれています。
作品自体は石鹸の香りが漂って見た目にも美しいのが皮肉です。
アートマーケットについて扱った作品です。
ロンドン、ドバイ、アイスランドと舞台を移しながら、巨大資本が動くアート業界の実態と、それに翻弄される人々を描きます。
著名な俳優を使っているらしく、演出も映画っぽくてそこいらの映像作品とは一線を画します。
映像では高層ビルがたくさん登場しますが、この森美術館も日本で最も高所にある現代美術館です。森ビルという巨大資本が絡む美術館で、アートバブルについて学ぶという体験も含めた作品になっています。
イラン軍のミサイル発射を伝えた写真が、写真を加工してミサイルの本数を水増ししていたことを元ネタにしています。
このようなフェイクニュースを笑い飛ばすような作品があることから分かるように、展示構成は徐々に「美術のちから」にシフトしていきます。
政治的、社会的な作品が並ぶコーナー。
東日本大震災直後に制作された作品です。
福島についての作品は多数ありますが、帰宅困難地域で開催された展覧会などChim↑Pomの活動はビビットかつクレバーなものが多いです。
東日本大震災から9日後から活動を開始したチームの紹介。
膨大な回数、避難所でワークショップを繰り返しています。
宮城県で取り壊される予定のカフェに、ある1点から見ると星が見える塗装を施した作品です。
今回はそれをインスタレーションとして再構成して展示しています。
こうして見ると震災への対応は癒しが真っ先に浮かびますが、警鐘を鳴らすことや、記憶を残すことなど色んな手法があることが分かります。
社会派の建築家としては世界的権威である坂茂氏。
これはニュージーランドの震災後に作られた紙菅で作られた教会です。
紙菅は巨大なサランラップの芯だと思ってください。
頭を突っ込んで教会の内観を体験することができます。
アートバブルに踊るアーティストがいる一方で、こんな作品を作る人もいるわけで、色々考えさせられる展覧会です。★★
日本に廃墟史はない★★「終わりのむこうへ : 廃墟の美術史」 – 博司のナンコレ美術体験2018年12月24日 10:42 PM /
[…] 廃墟展といいながら、廃墟の重要作家がかなり欠けている印象です。森美術館の「カタストロフと美術のちから展」のほうがよっぽど廃墟してます(あちらとは資金の規模がダンチですが・・・) […]